スタートアップ、始動

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スタートアップ、始動

日本にも起業家世代が誕生か――物質的な成功に捉われないこの若者たちに失うものは何もない。この国の将来を担う若き起業家たちを紹介しよう。

ネット接続なし
去る7月、東京・渋谷でアジアの起業家向けフォーラム「テック・イン・アジア」が開催された。世界各地のスタートアップ向けカンファレンスでお馴染みの、学生的でフレッシュな雰囲気に包まれたイベントだ。ラフな格好の将来有望な若者たちが、私たちの生活を大きく変える「アイデア」を掲げて熱いピッチ(売り込み)を繰り広げる光景は、どこの国でも変わらない。「必ず成功します!」と自信に満ちた口調で語るのは、株式会社deBitを立ち上げたエンジニア、シモン・バルドゥッチ氏とステファン・ルター氏。同社は従来のクレジットカード口座とビットコイン口座をつなぐサービスを提供している。「日本のビットコイン利用者は現在20万人。これは当社の事業モデルが十分な収益性を達成できる数字です」とバルドゥッチ氏は試算する。同社の右隣にブースを構えるEYES社は、サイクリストの走路周辺の環境データを測定するシステム「FUKUSHIMA Wheel」を搭載した革新的な自転車を展示。そして舞台裏では投資家たちがあちらこちらで行われる「ピッチ」に耳を傾け、日本国債やトヨタの株より有望な投資先を物色している……。中でも来場者の注目を集めていたのはメルカリ社の「ハードディスク頭脳」であり、代表は次々といくつものベンチャー企業を立ち上げる「シリアル・アントレプレナー」として知られる山田進太郎氏(37歳)だ。同社は誰でも携帯電話を操作して不用品をフリマに出品することができるC2C(消費者間取引)サービスを提供する。米国では同社のアプリが6ヵ月間で実に1900万回もダウンロードされたという。同氏は「広告宣伝の方法を少し変更しただけです」と説明する。
メルカリ社は、日本が夢見てきたサクセスストーリーを体現する会社だ。この国は、新規参入者や革新的な商業モデルをなかなか生み出せずにいる。一般に「ニューエコノミー」と称される分野で176社を数える所謂「ユニコーン企業」(評価額10億ドル以上のスタートアップ)のうち、日本企業はメルカリ社のみ。米国(98社)や中国(51社)、ドイツ(4社)、さらにはフランス(2社)などと比べてもお寒い状況である。「トランジスタにビデオテープレコーダー、大型石油タンカー、アーク炉、テレビ受像機、さらにはトヨタの生産モデルなど、日本は20世紀を通じて破壊的革新を次々に生み出した国でした」と数多くの事例を挙げるのは、日本を専門とするエコノミスト、リチャード・カッツ氏。さて、こうした状況は今の日本にも当てはまるのだろうか?

厳しい現状
「テック・イン・アジア」の大ホールでは、「古株」――と言っても30代にすぎないが――が、自身の成功と失敗経験を語っている。残念だったのは、参加者に対するWiFi接続サービスの提供がなかったこと、セッションの大半が日本語のみで行われていたこと、そしてカンファレンスの聴衆がまばらだったことだ。シリコンバレーのシード投資ファンド500Startups社の調べによると、2015年のスタートアップ向け投資可能資産は、米国の750億ドルに対し日本はわずか12億ドルだった。(ちなみに同年のフランスにおけるベンチャー・キャピタルは18億ユーロ。)「その一方で日本経済は米国経済の3分の1の規模を有しているわけですから、この格差は大きすぎます」と500 Startups Japan社の若き代表、ジェームズ・ライニー氏はこう述べる。
ニューエコノミーに対する投資がかくも冷遇される理由は? 第一に挙げられるのは、日本の状況がこの種の投資に向いていないということだ。日本のベンチャー・キャピタルの経営者は、米国と異なり手持ち資金を失うリスクをものともせず臨機応変に立ち回れる投資家ではない。この国の投資資本は、「エンジェル投資家」というよりもむしろ「堅実かつ慎重な」決定を下すことの多い旧来の大規模投資企業の手に委ねられている。これらの企業でベンチャー投資を担当するのは、期限付きでこのポストに配属された一介のサラリーマンに過ぎない。彼らは特定の投資先を強く推すための個人的モチベーションに欠けている。
日本におけるスタートアップ(企業)の抱えるもう一つの問題は、これら各社が企業買収の対象になりにくいという点だ。日本企業は、その製品やサービスの開発を、企業買収によるのではなく社内で独自に行うことを好む。投資資金の回収方法が、競合他社による買収ではなく株式上場に限定されてしまうことが多いのはそのためである(米国では、頭角を現わしたスタートアップの実に80%が他社に買収されている)。「日本企業による買収の対象となるスタートアップは、価値の低い(500~1000万ドル)企業か、あるいは逆に価値の高い(10億ドル以上)企業に二極化されており、この間に位置する中堅企業には見向きもしません」とジェームズ・ライニー氏は述べている。「ところが最善の投資先は恐らくこの中間層、具体的には5000万から5億ドルの間に位置する企業なのです。有名なのは、ビデオレンタルチェーンのブロックバスター社とネットフリックス社の例ですね。ブロックバスター社はネットフリックス社を5000万ドルで買収するオファーを持ち掛けられましたが、これを拒否しました。ところが今日ブロックバスター社は倒産、その一方でネットフリックス社の企業価値は530億ドルにも膨れ上がったのです。日本の大企業はスタートアップの企業価値を正しく評価し、最善のタイミングで買収に乗り出す術を身につける必要があるでしょう。米国のシスコシステムズ社やセールスフォース社、Googleなどはそのあたりの見極めに長けています。」
日本に目を向ける外国人投資家たちもまだ少数派だ。ジェームズ・ライニー氏は、「外国人にとって日本は取っ付きにくいブラックボックスのようなもので、しかも英語が通じにくいという問題もあります」と嘆く。500 Startups Japan社は既に2500万ドルを集め、9社に対し10万~50万ドルの投資を行ったという。同社は日本に資本投下する数少ない投資ファンドだが、その開拓者としての投資活動がメディアに取り上げられればプラスアルファの利益が見込めると踏んでいるようだ。

好転の兆し
しかし日本のスタートアップが置かれた状況は好転しつつある。政府や大企業も、彼ら自身にはないスタートアップの潜在的な成長力や生産性向上の可能性に気付き始めているからだ。「数年前の状況を思えば、現状は比較にならないほど改善されてきています」と述べるのは、求人サイト「ウォンテッドリー」を立ち上げた仲暁子氏。「米国における生産性の革新的な向上はニューエコノミー企業から生まれたものではなく、むしろインターネットによる手段を利用したオールドエコノミー企業によってもたらされました。日本でも同じような潮流を生み出していく必要があるでしょう」とリチャード・カッツ氏は指摘する。さらに好転の兆しとなる重要なポイントは、自ら起業しようとする意欲のある学生が増えているということだ。これまで学生の就職先として不動の人気を博してきた大企業(トヨタや電通など)もうかうかしていられない。こうした大企業は新入社員に対し時代遅れの激務を強いるばかりか、忠誠心と引き換えに終身雇用を保証することもできなくなっているからだ。野村総研による最近の調査では、2014年に学生が創設したスタートアップのうち株式上場を果たした企業は47社に達するという(2008年には24社)。「才ある人材が新興企業に就職したり、自ら会社を立ち上げたりするケースが増えています。若い世代にとって、三菱やソニーに就職することが昔ほど魅力的でなくなっているのです。結局のところ、自ら起業することが『カッコいい』と思われるようになった、それが日本に訪れた一番大きな変化でしょうね」とジェームズ・ライニー氏。そして「カッコいい」ものには誰も逆らえない…

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