日本における水素利用の推進

日本が信じる水素の将来性

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情熱

「探し求めていたものはここにあった!」――スマートエネルギーWEEK 2018(東京)の会場に美味しそうな食べ物が展示されているはずもないが、アルノー・ヴァスケはまるでお菓子屋さんにやって来た子供のように目を輝かせていた。遠洋航海船の船長という職を投げ打ってスタートアップ企業Hyseas Energy社を立ち上げた同氏は、海運業界でまだ手つかずの燃料電池を開発しようと考えているらしい。少し足を伸ばせば、プラグマ・インダストリー社を創設したピエール・フォルテ社長が、本拠地バスク地方の道路を走る水素自転車をPRしている。その目と鼻の先にある巨大なセミナールームでは、指導的立場にある経済産業省の山影雅良「水素・燃料電池」戦略室室長が見本市の基調講演を終えたところだ。観客席には水素の未来を信じる多様な産業分野の関係者が、まるでミサに集う信者のように陣取っていた。講演のお題目は?――「水素社会実現に向けて」。「中韓、そして日本では大きなエネルギー選択の機運が高まりつつありますが、水素について一歩リードしているのが日本です」とヴァスケ氏は語る。

彼の意見はもっともだ。事実、日本は水素に向けて舵を切ろうとしている。産業関係者は既に大枚を投じており、水素エネルギー関連の報道写真にいつも収まる首相の姿を見れば当局の力の入れようも明らかだろう。日本の水素関連テクノロジーお披露目の場となる2020年の東京オリンピックでは、大会期間中に燃料電池バス約100台の運行が予定されている。この年には川崎重工(KHI)がオーストラリア沿岸に建設予定の港湾施設を拠点として、褐炭から生産した液化水素をガスと同じ要領で日本まで海上輸送するという計画も。国の債務超過は250%にも達する勢いだが、それも止むを得まい…… 

新参のエネルギー

ただ少なくとも言えることは、日本における水素利用の普及がまだ道半ばだということである。政府は2025年を目処に燃料電池車20万台の普及を見込んでいるが、現時点で日本国内を実際に走っているのはわずか2400台に過ぎない。向こう7年間で320ヵ所の設置を目指している国内の水素ステーションも、現状101ヵ所に留まっている。政府は要望ベースで家庭に設置するコージェネレーションシステム「エネファーム」の成功を喧伝しているが、25万台を数えるこのシステムも、補助金によるテコ入れにも関わらず売り上げは減少傾向にある(2017年は17%減)。

こうした日本の選択に懐疑的な声も。テスラ創設者でメディアでもおなじみのイーロン・マスクなどは水素を頭から馬鹿にしている。日本はそんな批判をものともせず実現目標として2030~2050年を見据えているが、なぜ水素にここまで肩入れするのだろう? 水素自体が持つ特性(輸送可能、貯蔵可能、あるエンジニアの詩情溢れる表現によると「宇宙の約四分の三で入手可能である」こと)に加え、このエネルギーには日本全国の産業施設に活力を吹き込む可能性がある、というのがその理由だ。全く新しいインフラ一式の設置を要する水素の導入には日本の類稀なる生産部門関係者による総力戦が不可欠で、「不良品ゼロ」を謳う日本製造業の粋を集めなければならない。「水素は非常に小さな原子で構成されていますので、信頼性の極めて高いインフラが必要になります。こうしたインフラを建設できる国はあまりないのですが、日本人にはそれができるでしょう」と請け合うのは、見本市で基調講演を行う講師の1人、EDF(フランス電力)「スマートエネルギー標準化」グループのリシャール・ションベルグ副会長。また燃料供給分野の日本最大手タツノでこの部門を担当する森泉直丈氏は「弊社では国内のガソリン計量機を作っていますが、最近は水素ディスペンサーを製造するようになりました。我々にとって水素は既に重要な部門になりつつあります」と述べている。さらに川崎重工なども、この30年間製造してきたガス運搬船の後継に水素運搬船をイメージしているようだ。加えて日本には、国内外で水素利用の正当性を擁護する後ろ盾がある。「日本が水素を選択したのは、トヨタがこれに肩入れしているからですよ」とはある業界関係者の弁だが、愛知県に本社を置くこの世界有数の巨大自動車メーカーの影響力は絶大のようだ。なにしろトヨタはハイブリッド車で成功を収めた唯一のメーカーであり、自動車雑誌『WARDS』の日本市場担当ロジャー・シュレフラー氏によれば「しかもこれで大儲けした!」のだから。

ドイツと米国

水素エネルギーには他の産業大国、とりわけドイツと米国も関心を示している。「今から30年前、伝説の経営者と呼ばれるゼネラル・エレクトリック社のジャック・ウェルチが日本を訪れました。米国に帰国したウェルチは『“新幹線思考と目標”を取り入れ、ひとつずつ障害を片付けていくのだ』と言ったんです!」と力説するのは、米国エネルギー省(DOE)燃料電池技術局部長スニタ・サティヤパール氏。「我々は石油ショックを受けてDOE を立ち上げたのですが、水素に関する研究を開始するのに時間はかかりませんでした。そして今、実現性のある新たな産業の誕生を目の当たりにしようとしています」。ドイツにおける水素インフラの普及を主導する公的機関NOW(水素・燃料電池機構)運営委員会のクラウス・ボンホフ氏は「水素の利用は、二酸化炭素排出削減への大きな一歩となるでしょう」と大いに語る。メルセデス社も、そのプレゼンテーションで水素エネルギーを絶賛した。

東京で話を聞いた人々の大半は、クリーンな化石エネルギーからリチウム・空気電池に至る将来的な一連のソリューションに水素も当然加わるものと考えている。山影雅良氏は「水素はエネルギーというより、むしろ他のエネルギーを貯蔵・輸送できる媒介役とみなされるべきです」と述べる。つまり風力や太陽光、バイオマスなどから生産された電力を、貯蔵・輸送可能な水素に転換して使用する、ということだ。

だが、日本という国は他方で自ら水素エネルギーの普及を妨げている。水素利用の促進を担う同じ国の官僚機構が、重箱の隅をつつくようなややこしい手続きを課してこれにブレーキをかけ、結果的にそのコストを上げてしまっているからだ。ドイツなど他国では認められているセルフサービス式ステーションの禁止などはその最たるものだろう。「今1立方メートルあたりの水素は100円ですが、2030年にはこれを30円まで下げたいと考えています」と山影氏は述べ、最後にこう付け加えた。「先日ロックループLUNA SEAのコンサートに行ったら、エレキギターを水素エネルギーで鳴らしていたんです。それは素晴らしい音でしたよ」


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