リチャード・カッツ : 「ちょっとした工夫があれば……」

Richard Katz

日本のイノベーションをどうやって振興するか? これは経済学者リチャード・カッツ氏が自身の次の著書で問うテーマである。本誌は、同氏にインタビューを行った。

新たな著作のテーマについてお聞かせ下さい。
日本におけるイノベーション戦略を打ち立てようと試みています。日本で行われていること、いないことをただ紹介するのではなく、この国で実施できそうなことを探ろうということですね。日本には非常に大きな潜在力があると私は考えています。

起業家が直面する日本特有の問題点とは?
毎年約50万人もの人々が大企業を去って中小企業に移っています。米国ではスタートアップが成功すると10年で従業員数100人規模の会社に成長しますが、日本ではこれがわずか15~20人程度に留まっており、この国における人材登用の難しさが浮き彫りになっています。簡単に起業できても、これを成長させることは難しい。ですが今では大企業を離れて生き方を変えようとする25~35歳ぐらいの優秀な若き幹部社員が 増えています。また45~55歳世代にも注目したいところです。子供の養育費負担から解放された定年退職予備軍が、起業家としての夢を実現させたいと考えているのです。
日本のスタートアップが抱える財務上の問題は、投資家が早期の資金回収を求めるあまり、会社の上場を必要以上に急かすことです。テクノロジー分野を中心とする東証マザーズ市場を例に挙げると、ここに上場する企業の多くが極めて 短命です。なにしろこうしたスタートアップ企業の実に3分の1が上場後に売上を落してしまっているんです! 私が訪問した川崎市の企業FOMM を例に挙げましょう。 同社はスズキの元社員が立ち上げた会社で、タイなど洪水に見舞われることの多い国向けに、水害時に水に浮き、水面を移動する対水害設計の車を開発しています。大量生産開始は2019年からですが、投資家は同社を2020年にも上場させたいと望んでいます。早過ぎですね!米国では資金と専門知識を提供するだけで、上場を急かすようなことはありません 。

将来の明るい見通しは?
日本では大企業がスタートアップを買収する ケースが増えていますが、これは大きな変化です。スタートアップにとっても得るものは大きいですし、これら新規参入者に対する大企業の姿勢 も以前よりオープンになっていることが伺えます。もはや自社単独であれもこれも試せる時代ではないということを、大企業も理解しているわけです。ジョンソン・エンド・ジョンソンが販売している製品の3分の1は社外で開発されたものですし、この割合は将来的には2分の1まで増える見込みです。これが企業のいう「オープンイノベーション」ですね。日本の複合企業にもやがてこうした状況が訪れるでしょう。
もうひとつの新たな傾向として挙げられるのが社内ベンチャーです。その代表例はソニーのプレイステーション。このゲーム機を開発したのは 同社の社員で、彼は同社のテレビゲーム分野の将来性を高く評価していました。部内で孤立していた彼は当時の社長、大賀典雄氏のバックアップを得てこのゲーム機を完成させ、これが今では同社利益の20%を生み出すまでに成長したのです。企業内で独立性を保ちながら仕事を進めるのが彼らのやり方ですが、他国に比べ日本では社内ベンチャーがまだまだ少ないようです。しかし 日本人の頭の良さや創意工夫の力は、特許出願の数を見れば明らかです。

日本のスタートアップの注目株は?
アスクルは配送業界のUBER のような存在です。日本の宅配業界は大手3社が市場の90%を独占しており、3万社に及ぶその他の企業が残りの10%に蝟集しているという現状ですが、後者が使用する運送トラックのうち目一杯荷物を積んでいるのはわずか40%に過ぎません。2015年、アスクルはこれらのトラックを共有するためのプラットフォームを開発しました。結果として公害や渋滞を緩和し、さらに運送業者にとっては収益アップにつながるこのシステムは、関係者全員に利益をもたらすシステムですね。こうしてイノベーションがなくなることはありません。日本人が決してリスクをとらないというのは、彼らが貯金ばかりしているというのと同じような幻想です。リスクを恐れず取り組める経済システムが必要、それだけのことです。

では一体何が問題なのでしょう?
これはマネジメントの問題です。この国の企業は、予め定めた目標達成に向けわき目もふらず邁進することを自社のエンジニアに求め、自由なイノベーションにつながる遊びの部分を一切認めようとしません。その労働時間のうち10%でも自由に使うことができたら、彼らエンジニアはきっと素晴らしい発明をするでしょう。ソニーのプレイステーションや東芝のNANDフラッシュメモリなどは、経営方針にむしろ反する形で辿り着いた発明だったのです。

イノベーションを振興するための手立ては?
政府が補助金を出すか、あるいは免税措置を講じることでしょうね。ただし免税は対象企業が既に儲けを出しているか、または一定期間に割り振って適用できなければ意味がありません。日本の支援はそのような形になっておらず、そのためこの国の研究開発支援の大半は既に名のある大企業により独占されているのです。この点については改善の余地があると思います。また 社長が高齢で後継者がいないというだけで、 年間1 万社もの企業が倒産しています。中小 企業の借入金のうち85%は個人の保証人を求められていますが、他国ではこれがわずか20%です。この国の金融システムはどうもうまくいっていない印象をうけます。
良い例も挙げておきましょう。米国のある投資 ファンドが日本の小さな鉄鋼会社を買収しました。ファンドは4年後に同社の企業価値を倍増させ、売り上げを75%も伸ばしました。方法は、 工場を現代化した、ただそれだけです。なぜこれまでの経営者はそこに投資しなかったのか? そのためには融資に頼るほかなかったのですが、銀行がその条件として個人の預金を担保にするよう求めたからです。こうしたファンドの働きを受けて銀行の同社に対する信用は高まり、その後工場長は銀行融資によりこの会社を買い戻すことができたのです。この時銀行は借り手個人の預金を担保にするのではなく、企業の将来的なキャッシュフローをベースに融資を行いました。他にもこのような事例は事欠きません。とにかく日本の潜在力は大きいと言えます。イノベー ションが実現可能であり、望ましいものであることがはっきりすれば、いずれ政治が動くでしょう。本書の目的は、こうした政策上の問題に対する解決策を提案することです。

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