ひとつのビジョンを見据える2人の運転手

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トヨタとソフトバンクが次世代移動サービスに向けて連携

仲直り

20年ほど前から仲が悪いと言われていた。トヨタの社長就 任前、当社のポータルサイトGazoo(ガズー)立ち上げに携 わっていた豊田章男氏に、当時既にソフトバンク社長であっ た孫正義氏が接触した。インターネット分野での功績を自信 に、トヨタ自動車販売店をネットでつなぐシステム作り提供 を提案したのだ。「そのアイディアは、アメリカから導入され たばかりでした」。10月初め、当時を振り返り豊田氏はこう語 った。「しかし、Gazooにあまりに大きなエネルギーを投じて いたので、孫さんの提案をお断りしました。少々不躾に映っ たかもしれません」と、豊田氏は少し微笑んで後悔の言葉を 述べ、孫正義氏からようやく許しを得たことを打ち明けた。 長い間連携を断ってきたこの二つのグループ企業は、10月4 日、新しい共同出資会社の設立と、自動運転車を使った次世 代移動サービスの共同開発を発表した。 数ケ月もすれば、2社のエンジニアと専門家は、Mobility Network に由来するMONET(モネ・ テクノロジーズ株式会 社)で共に働き始める。資本金20億円。出資比率はソフトバ ンクが50.25 %、トヨタ自動車が49.75 %だ。「新会社設立は 2018年度内をめどにしています」と豊田氏は言う。

遅れ

この未来の技術分野で、欧米のインターネットと自動車製 造業界が開発を進めていることを懸念し、トヨタ自動車とソ フトバンクは、各社のノウハウの連携によってライバルに対 する遅れを取り戻したい考えだ。「私たちは追いつけるでし ょう」。ソフトバンクのCTO(最高技術責任者)宮川 潤一氏は 記者会見でこう言い切った。「確かにこの歩み寄りは異例に 見えるかもしれません。しかし、日本は全世界を相手に競争 していかなければならないのです」。今後トヨタは、自動運 転車の技術開発への投資を増やし、コスト削減を目指しな がらサービス導入に必要な規則的枠組を整えていく。同時 にトヨタにとって、VTC(運転手付き観光車両)サービスの大 手 Uber(ウーバー)や Grab(グラブ)のような自社産業以外 のパートナーがサービスの実施と将来車両に装備するソフ トウエア開発に必要だ。また、サービスに 利用される膨大な データ処理を学んでいかなければならない。「ソフトバンク が、この移動サービスを現実化する種を我々に与えてくれた のです」。豊田章男氏は、先月の孫正義氏との会談でこう話 した。「我々に、いったいどれだけのデータを収集できるでし ょう?これこそ、無人化の成功の鍵となるのです」。 一方ソフトバンク側は、既に半導体とソフトウエアの開発 (Arms Holding :アーム・ホールディングス)、自動運転車 の電子頭脳開発(Nvidia:エヌビディアコーポレーション)、 マッピング(Mapbox:マップボックス)そして、VTCサービス 大手(Uber, Grab, Didi Chuxin:ディディチューシン等)にか なりの投資を行っている。しかし、ソフトバンクは自動車の開 発から製造、販売、管理まで担う製造企業との連携を望む。 すでに GM(ゼネラルモーターズ)の系列企業で自動運転車 製造を専門とするCruise(クルーズ)に、25億ドル投資してい る。

日本が実験現場に

もしアナリストたちが言うように、ソフトバンクがトヨタの Cruise(クルーズ)プロジェクト参加を促せたなら、グーグル が主導するWaymo(ウェイモ)プロジェクトに拮抗する連携 となるだろう。しかし今のところ、この両企業の新しいパー トナーシップは日本における具体的サービス実施に専念す る。 彼らは、日本の加速する人口高齢化と過疎化が、自分達の考 えるソリューションを試す絶好の機会と見ている。「今日、4 人に1人の日本人が65歳以上です」。業務提携発表の日、宮 川潤一氏は繰り返した。「そのうち820万人の高齢者が買物 のアクセスに不自由しています」。ソフトバンクの役員である 氏は、病院不足の地域の増加も強調する。市町村はシャトル 送迎バスを配置して、この問題の解決にあたろうとしている が、「この事業に携わるバス会社の83%が利益を上げていま せん」と氏は続ける。 そこでソフトバンクとトヨタは、電気自動運転シャトルバスの 使用を提案する。2018年初めにトヨタが発表したE-palette( イーパレット)電気自動運転車にソフトバンクと関連企業 が開発した人工知能サービスを搭載。この先10年の間に市 町村や孤立した高齢者へ提供される代替案である。 合計約100の村がテスト地域として選ばれる予定だ。いくつ かの地域では、ミニ店舗化したE-paletteが移動の不自由な 住民の要望に応えて訪問する。自動車のサイズも様々だ。病 院に通院が必要な高齢者を迎えに行ったり、センサーを搭 載した車内で、移動中に診察前検診を行ったりすることもで きる。E-paletteは無人宅配も行う。 この二大企業が手を組めば、日本政府を説得して革新に向 けて有利な規則を早々に決めることも可能だ。「自動車はす でに準備ができています。しかし、社会がまだついてきてい ないでしょう」。宮川潤一氏は認めた。

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