ジョエル・ロブション氏に感謝する二つの故郷

JOËL ROBUCHON

ポール・ボキューズ氏から半年、日本とフランスはまた一人、偉大なシェフを失う

2007年11月19日、美食家たちに新たな巨星の一群が出現した。この日は、ミシュランガイドの最初の東京版が発刊された日である。審査員はパリよりも多くの星を発掘し、東京を美食の天空へと 位置づけた。この料理界のコペルニクス的転回を祝うため、多くのフランス人シェフを含む世界中のシェフたちが、東京まで駆けつけた。この日、和やかな雰囲気の中、祝賀会の会場には同業のシェフたちがひしめき合った。しかし彼らに誰が料理を出すのだろう?誰が「シェフの中のシェフ」なのか?世界中の優れた職人たちを満足させられるのは誰か?それはジョエル・ロブション氏だった。相手から相手を通り抜けるチェスの天才のように、その晩、ロブション氏は六本木ヒルズにある自身のレストラン「ラトリエ」で、31人の シェフに同時にディナーを供したのだ。

唯一無二の存在
しかし彼以外に、この特別なディナーを提供できるシェフはいただろうか?ジョエル・ロブション氏は、フランス人シェフの中でもいち早く日本料理の重要性を理解し、その認知度を広めるために活動したシェフだった。1976年にはすでに来日を果たしている。先見の明があり、名前を冠した調理師専門学校の創設者である辻静雄氏らの招聘で、ロブション氏は何年も料理の実技を披露した。当時税関をしり目に、エシャロットや香辛料をスーツケースいっぱいに隠して持ち込んだことをよく楽しそうに話していた。年長者を尊敬し、流行よりも食材に忠実だった。日本人はこの“運び屋”を大いに歓迎したのだった。
ロブション氏はやがて、フランスの幻想的な古城を思わせるシャトーレストラン(建設にはシュ ヴィニーの石とトレラゼの瓦が使われた)を、 東京恵比寿にあるショッピングセンター恵比寿ガーデンプレイスの中央にオープンさせた。それから後に、ロブション氏自身のさまざまな発見から着想を得たコンテンポラリー・フレンチを提供するという新たなコンセプトで、「ラトリエ」の第1 号店を開業。それ以外にも世界各地で10店舗のラトリエを手がけた。

日本に学ぶ
ジョエル・ロブション氏は日本に教えに来ていたが、同時に生徒としても再出発を果たした。ロブション氏の訃報を受け、アラン・デュカス氏は 「仕事熱心なジョエル・ロブション氏は、何においても第一人者でした。とりわけ日本の魅力を発見し、日本に常に愛情を注いでいました」と、コ メントを寄せた。ロブション氏は、日本料理から多くを学び、1995年に51歳で一度引退を発表してから、第二のキャリアにおいてもインスピレーションを得続けることになった。
料理はショー(見世物)になれることを理解したのもここ日本で、とりわけ寿司職人である小野二郎氏との交友からだった。ロブション氏は典型的な幅の寿司カウンターをラトリエに再現した。習わしによると、寿司カウンターの幅は、ちょうど男性二人が手をつなぎながら両腕を伸ばした長さで、会話には理想的な距離なのだ。
ロブション氏は、日本の職人の職業倫理と忠誠心を賞賛した。日本の職人だけが、レシピの几帳面で細かい約束事を完璧に、そして何度でも再現することができる。日本人は「ものづくり」を料理でも実践し、この規律は、料理界では普通のことであった、頻繁すぎるほどの心身的な辛い仕打ちと引きかえに得られるものだった。ジョエル・ロブション氏は、料理では優しい人という評判はなかった。「ロブション氏は厳しい人だったと言われていますが、かつての生徒たちは皆、彼が大好きなのです!」と長年の弟子の一人はいう。こうしてロブション氏は、日本の若いシェフ十数名の滑り出しを助け、彼らは後に、日本やフランス、その他世界各地で、自らのレストランを オープンさせた。

他と同じように
日本は第二の故郷となった。年に4、5回来日し、提携企業が用意する豪華なロールスロイスの後部座席に乗って、日本を走りまわった。しかしロブション氏は、常に不安と慎重さの影を瞳に帯びていた。ジョエル・ロブション氏は、ガストロノ ミーレストラン5店舗、ラトリエ11店舗の計19か所のレストランを含む38店舗を残して亡くなった。最後の挑戦は日本にまつわるものだった。日本酒製造業の獺祭とのコラボレーションによりパリに開店した、DASSAÏ日本酒バー・パティスリー・レストランだ。「ロブション氏が大事にしたのは、食材のエッセンスと、その産地や旬でした」と、美食評論家のペリコ・レガス氏は訃報を受けてコメン トした。この言葉は、まさに日本の偉大なシェフにふさわしいだろう。いつの日か、日本が二重国籍を認める日が来るかもしれない。多くのフランス人が取得するのは間違いない。ジョエル・ロブ ション氏は最初に授与される人物になっただろうに。

 

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