パスツール、新たな礎の上に

クリスチャン・ブレショ

2005年に誕生した日本パスツール協会は、2016年に日本パスツール財団として生まれ変わった。クリスチャン・ブレショ理事長がこれまでの経緯を振り返る

パスツール研究所ネットワークにおける日本の位置付けは?
パスツール研究所は、設立当初から国際的な側面を持っています。現在世界26ヵ国33の研究機関と連携しています。このネットワークは、率直に申し上げますと旧フランス植民地を中心とするものでしたが、2000年以降はこうした枠組みを超え、日本などの研究大国やインドのような新興国にも進出することになりました。

日本パスツール協会はどのように誕生したのですか?
大方の例に漏れず、意思決定者を動かしたのは研究者の個人的なイニシアチブです。私が来日した時には、ピエール・ボードリー氏や渡辺昌俊氏など錚々たる面々が、パリからの支援がほとんどない中で協会を運営していました。しかし私は日本が重要な国であると考えていましたから、昨年この協会を財団化することにしたわけです。向こう数年間の主な目標としては、「公益法人」の資格を取得することが挙げられます。実現すれば税額控除を受けられるようになり、企業との連携なども容易化されるでしょう。

現在の協力関係は?
日本の研究機関との間で導入したのが「国際研究ユニット」と呼ばれるパートナーシップです。これは研究者によるボトムアップのイニシアチブで、パスツール研究所と他の機関の双方にラボを設置して共同研究を行うというものです。このパートナーシップは、まず京都大学の松田文彦教授と当研究所のアナヴァジ・サクンタバイ博士との間で締結されました。また東京大学との間でも原則合意書を交わしており、こちらも同様の展開が見込まれています。こうした提携により財源獲得の見通しが改善されることに加え、何より人的交流が大幅に容易化されるというメリットがあります。また日本の国立国際医療研究センター(National Center for Global health andMedicine、NCGM)との間でもパートナーシップ合意書を交わしました。パスツール研究所の方針と、アフリカやアジア諸国において積極的な取り組みを展開する日本の姿勢には、お互いに足りない部分を補うようなところがあります。当方も長きにわたりアジア・アフリカ諸国での活動を続け長期的な協力関係を構築していますし、インフラや専門的なノウハウも充実しています。日本との共同事業の軸のひとつは伝染病への対処です。パスツール研究所は伝染病に関する「アウトブレイク調査タスクフォース(Outbreak Investigation Task Force)」を設置しました。新たな伝染病の発生はこの先にも起こり得ます。既に日本政府からの出資を得て、ラオスにおけるプログラムを進めているところです。さらに当財団としては日本の産業界とも積極的な連携を模索しており、明治やコニカミノルタなど複数の日本企業と実際に緊密なパートナーシップを展開しています。これら各社とは一時的なお付き合いに止まることなく、長期的視野に立った共同戦略を推し進めていきたいですね。

日本と異なり、フランスでは所謂「ラボ」と一般企業との間に高い壁がそびえていると言われるようですが、これは事実でしょうか?
フランス国内で、またフランスについてそのような声を耳にすることも多いのですが、障壁は徐々に取り払われてきたように感じています。私はパスツール研究所の所長に就任する前に、フランス国立保健医学研究所(Inserm)の所長や民間グループのメリュー研究所副所長などを務めましたが、その間に状況は大きく変化しました。今ではフランスの研究者もしっかりとした企業家精神を持っています。逆に、前回来日した時には、一部の日本人研究者が日本の官民パートナーシップを批判するのを聞いて驚いたこともあります。

誰もが知るパスツールの名前ですが、その名を冠した研究所の取り組みは十分に認知されているのでしょうか?
パスツールと言えば、日本でも米国や他国と同様誰もが多大な敬意を払っていますが、実際のところ当財団の活動に対する一般の認知度はいまひとつです。この点に関してはさらなる取り組みが必要だと考えています。

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