ロボットと人間

ロボットとは人間にとって何だろうか。最先端のアンドロイド(自分自身にそっくりのコピーロボットや文豪夏目漱石をモデルにした人間型ロボットなど)を開発する石黒浩氏は、ロボットの一番の理解者である。

日本ではロボットへの期待度がとても高いと思います。例えば労働力不足の解消、高齢化社会への対応などがあげられますが、ロボットに期待しすぎではないでしょうか?
現在はいわゆる「ロボットバブル」の状況にあると思います。ペッパーは新たな用途が広がらず苦戦していますし、ホンダが開発し期待の星だったアシモはすっかり影が薄くなってしまっています。この分野では、非常に多くのスタートアップ企業が生まれ、国の補助金を使い果たしては消えていきました。しかし、このようなバブルは歴史上常に存在してきたものです。既にルネサンスの時代から人間はロボットに魅了されてきました。1893年、ジョージ・ムーアは蒸気機関で動くロボットの夢を見ています。私たちは現在、人間と協働できるインタラクティブなロボットの開発に重点的に取り組んでいます。

人間がロボットに惹かれるのはなぜでしょうか?
イノベーションを志向する習性こそ、人間と動物の違いだということの理解が重要です。椅子、鉛筆、シャツ、その他我々の生活に馴染み深いあらゆるものが科学技術により生み出され、我々の社会の9割方を形成していると言っても過言ではありません。つまり、人間自身がほとんどロボットのようなものなのです。人と会話する機能のついた炊飯器やカーナビゲーションシステムなど、機械製品は少しずつ親しみやすくなってきています。

この数年、ロボット開発では実質的に技術革新がなく限界に達したかのようですが。
私たちは常にロボットを改良し続けています。開発したロボットは第4世代になりました。小さなスーツケースに入れて持ち運び可能です。私の代わりに講義をすれば給料は要りません。(私の場合は常にビジネスクラスの航空券が必要になりますが、ロボットなら機内預かり荷物で運べます)。私に触りたいという人は誰もいませんが、ロボットなら誰でも触りたがるのです。そうすると、そのアイデンティティが問題になってきます。ロボットに人間性を持たせることで、人間をよ深く理解できるようになります。ロボット開発の技術者は社交的でない人がほとんどなのですが。

一番独創的なあなたの作品は何でしょうか?
私たちは夏目漱石をモデルにしたアンドロイドを開発しています。漱石のデスマスクを3Dスキャンし、著作を朗読させ漱石の姿を再現し、漱石研究者にも検討してもらおうと考えています。漱石アンドロイドは日本文学を専攻している学生に大きな影響を与えるでしょう。また、著名な落語家(日本の伝統芸能の芸人)である3代目桂米朝をモデルにしたアンドロイド「米朝」を開発しました。これで彼はさらに長く活躍できるでしょう。その他、センサーで人と遠隔操作でつながったアンドロイド「ジェミノイド」も開発しました。ある人がジェミノイドにキスすると、遠隔操作でつながっている人がセンサーを通じてキスを感じることが出来ます。寝たきりの高齢者などへのケアにこの技術の応用が考えられます。障害を持った人が別の身体を持つことができるためにこの技術は活用されるでしょう。また、「テレノイド」というものもあります。認知症患者向けのぬいぐるみのようなロボットです。

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