東京――国際金融都市への遠い道程

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都市レベルでの様々な努力にも関わらず、国として解決すべき課題が山積

いつか見た光景
東京が再チャレンジ――世界最大級の都市が、国際金融センターとしての地位を取り戻そうとしている。2016年11月、小池百合子都知事は「今回はラストチャンスという危機感で踏み込んでいきたい」と述べた。あれから9ヵ月の間に都知事は有識者委員会を立ち上げ、国内外の金融部門関係者からの意見集約を進めてきた。ここには日本で現在活動中の外資系金融機関179社のうち8社も含まれる。議論の俎上に上っているのは、例えば都税の引き下げや適切な人材の育成、さらには外国人受け入れのための国内環境の整備(病院への英語を話せるスタッフの配置、インターナショナルスクールなど)といった課題だ。知事が警鐘を鳴らすのも無理はない。1990年代 に崩壊した日本の金融部門がその傷を癒している間に、香港とシンガポールは自他ともに認める国際金融都市としての地位を固めていたのだから。凋落する東京――その証拠に、CLSA証券が毎年グランドハイアットで開催していた投資家向けフォーラムなども、今ではもう開催されていない。全体として見れば、追い風は吹いていると言える。ここ2年間、チャレンジ精神旺盛な金融庁の森信親長官の旗振りのもと、金融行政の改革が推し進められてきた。森氏は国内業界関係者の無為無策を批判し、融資先企業の利益に配慮した「行動原則」の策定を彼らに義務付けた。一方で外国事業者向けには、その意見や批判、提言を拾い上げるフォーラム「金融行政モニター(Financial policies monitor)」を立ち上げている。欧州ビジネス協会(EBC)の「資産運用」委員会の委員長を務めるニコラ・ソヴァージュ氏は、「金融庁は事業者との対話を重視しています」と理解を示す。業界の重鎮も「規制は分かりやすくなり、査察の枠組みもしっかりと設定されました。外国事業者への対応も良くなっています」と認めている。

さらに、日本の業界は外国事業者の提供する優れた資産運用サービスを活用したいと考えており、彼らを(いわばサプライヤーとして)広く歓迎して いる。「現在の日本の金融商品はリスクが高く、顧客の中でも特に裕福な層を対象としています。日本で預金と言えばただお金を預かっているだけのような商品しかありませんが、私どもが提案するのはそこからある程度利益の得られる低リスク商品です」と述べるのは、ある外国投資ファンドの管理職。彼らの目に日本は将来有望な市場と映っているようだ。

負け組
しかし都レベルでの努力だけでは、香港やシンガポールのような国際金融都市になることはできない。その理由としてまず挙げられるのが、外国事業者が挙げる日本最大の問題点、すなわち税制上の課題に都として対応する術がないということだ。ある大手仲介業者のトップはこう述 べている。「重要なのは、資金運用者が得た利益にかかる税率です。東京で課される税率は60%ですが、香港やシンガポールで同じ仕事をした場合これが16%になります。わざわざ税金の高い 東京に行こうと思う人はいないでしょう。確かに東京の生活の質には他にない魅力があります。しかし私が仮に500万ドルを稼いでいるとして、日本なら400万ドル、香港であれば200万ドル課税されると聞いたら、どちらに住むと思いますか?」。さらにこの人物は「あるコンサルタントが、金融都市としての東京の魅力をPRするセミナーを企画しました。そこで示された条件というのが、あろうことか出席者からの税制に関する質問は一切受け付けない、というものだったんですよ!」と皮肉交じりに語った。もっとひどい話もある。日本は先頃、外国人居住者が日本国外に所有する財産に対して、日本出国時から10年経過するまで相続税(OECD加盟国中最も高い55%)を拡大適用するとの決定を下した。ある金融関係者は「つまり2017年まで日本に住んでいた英国人がロンドンにマンションを所有していた場合、この国外財産が日本の相続税の課税対象外になるには2027年まで待たなければならない、ということです」と苦境を訴える。金融部門に勤める日本在住の関係者は、冗談めかして「フランスの税制は良かった、と思える唯一の国が日本です」と述べた。日本人が増税に耐えてい る時に外国人納税者だけが課税を免れるというのは政治的にも通らない、とする財務省の理解 も得られそうにない。まだ大統領になる前、財務 大臣時代にフランスの状況について語ったエマニュエル・マクロン現仏大統領の言葉が思い浮かぶ。

「ここ(日本)は太陽のないキューバだ」。結局のところ、日本には国際的な金融活動を支える人材もなければ、これを受け入れる文化もない。グローバル化した業界で立ち回れる英会話能力を備えた管理職は少なく、生活費の高さも外国人関係者の来日意欲を削いでいる。さらに外国ファンドの運用に避けては通れない日本の信託銀行は、国内での取引同様国際取引でも動きが鈍い。

セールスポイントとして残るのは破格の規模を誇るその金融市場だが……  その魅力も内向きだ。とある外資系大手銀行の代表者は「東京は巨大な国内市場の中で重要な地位を占めていますが、いわゆる『オフショア・センター』ではありません。英語を話せる者は少なく、関係書類の事務やり取りも多いですし、さらに勧誘政策も覚束ないのが実情ですから……」と述べ、こう付け加えた。「日本のヘッジファンドですら日本で仕事はしませんからね」

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