氷河期にようこそ!

日本で好調な滑り出しをみせた ピカール。やはり「フランス」ブランドは 健在だ。あとは日本人の食卓に冷凍食品がどれだけ浸透していくか、お手並み拝見。

ロック氷のスター、一番星

フランスのブランドを求めてこれほど多くの人々が集まったのは、エルメスが銀座にオープンした時以来だ。2016年11月23日、フランスの大手 冷凍食品メーカー、ピカール(picard)が日本 第1号店をオープンした。場所は東京のシックな界隈を横切る原宿の骨董通り。笑顔で長い列を作る日本人に混じって、エスカルゴやサーモンのパイ包み、プチフールが恋しくなったフランス人家庭の主婦の姿も。初日の商いを終えたピカール広報担当の吉川明子氏は、「目標の3倍を売り上げました」とご満悦。以来、都内の同じくハイソな地区に2店舗が相次いでオープンした。

ピカールの日本進出を実現させたのがイオンだ。イオンとフランスの結び付きは長い。2005年、 日本進出から4年後に撤退の憂き目をみたカルフール8店舗を買収したのもイオングループだった。 3年前にスタートしたこの新たな挑戦にあたり、 イオンはエネルギッシュなリーダー小野倫子氏をトップに、従業員約15名の「イオン サヴール(AEON SAVEUR)株式会社」を設立。イオンは ピカールの成功を確信しているようだ。店舗の オープンに先立ち一部スーパー「イオン」では ピカールコーナーを設置、18ヵ月間にわたり試験販売を実施した。「50点から始まった商品数は、

現在200点まで増えました」と吉川氏は胸を張る。イオンは高級地区のど真ん中を出店地に選定、ここなら日本人消費者の冷凍食品に対するためらいを払拭できると信じて「フランス」産製品で勝負をかけた。

現状、日本の世帯が食材に求めているのは何と言ってもその鮮度だ。狭いアパートの小さな冷蔵庫を食材で満たすため、買い物のサイクルは一般的に短い。「日本の人口はフランスの2倍ですが、冷凍食品市場の規模はフランスの3分の1に過ぎません。日本の冷凍食品の半分は弁当用、10%が即席麺です」と述べるのは、ピカールの国際事業部責任者ステファノ・モレッティ氏。業界団体によると、冷凍食品生産はここ20年にわたり数量、金額の双方において停滞しているという。

一方で女性の社会進出が進み、独身の若者や65 歳以上の「M世代」(ここではミレニアム世代のことではなく熟年(mature)世代のこと)が増えている昨今、お手軽な冷凍食品が重宝されるようになってきた。そんな中、1200点にも及ぶ商品 ラインナップをひっさげて世界進出を目指す ピカールは非常に有利なポジションにつけている。「弊社では船荷の温度をリアルタイムでチェックできる体制を整えています。マダガスカルやレユニオンなどにも出店していますので、コールドチェーンの何たるかについては知り尽くしているつもりです」とステファノ・モレッティ氏は自信たっぷりに語った。

新たなステップ

ピカールの登場は大型スーパーの差別化戦略における1つのステップでもある。イトーヨーカドー などの競合スーパー同様、多様化・高級化に向け舵を切るイオン。人口が減少し細分化する国内 市場において、スーパーやコンビニはわずかな パイを奪い合っている。そんな中、新鮮な風を吹き込むニューコンセプトが登場してきた。例えばイトーヨーカドーは高級食料品チェーンの成城石井やカルディと手を組んだ。フランスのとある大型食料品グループの東京支社代表は「これら各社が販売しているのはニッチ製品ですので、価格 面での競合はありません」との見立てを示した。 イオンもピカールと提携して同じ方向に進んでいるが、彼らはフランス・ブランドのイメージに賭けたというわけだ。ピカール側も同社商品の「オーガニック」シリーズを強く前面に押し出している。

ピカールの日本進出には異論も。「この業務提携は理解できません」と打ち明けるのは、CLSA証券で業界分析を担当しているナイジェル・マストン氏。「イオンは郊外に暮らす庶民のためのスーパーチェーンです。ピカールに投資してもそこから高級志向への展開は難しいでしょう。中期的に見て冷凍食品の販売拡大が見込めるのはスーパーではなくコンビニです。例えばセブンイレブンは、既に働く女性をターゲットとした独自の冷凍食品ブランドを展開しています」。

価格上昇

ところで日本のジャーナリストからは、ピカール 製品の価格設定が高いとの声が上がっている。 例えばフランスでは2.70ユーロで売られている6枚入りワッフルが、日本のオンラインショップでは8ユーロ(951円)もする。「フランスでは2ユーロで買えるFORMULE EXPRESS(軽食)シリーズに、日本では580円(5ユーロ)の値札がついています。これは妥当な値段でしょうか?」と、店舗オープン当日、ある日本人ジャーナリストが穏やかな口調でステファノ・モレッティ氏に問いかけた。 すると同氏は「輸送費がかかることもお忘れなく。価格はフランスよりも平均40%高くなりますが、他の外国6市場と比較するとその差はむしろ小さい方です」と反論。だがこうした位置付けは、ピカールを高級で異国情緒漂うフランス食材というカテゴリーに閉じ込めてしまう。日本人の一般的な食卓でこれらの食材はあくまで「脇役」(デザート、プチフール)の域を出ないというわけだ。その一方で、フランスの大型食料品グループ代表は次のようにイオンの投資を擁護する。「イオンは ピカールを使ったブランド戦略を推進しているのです。まずは目黒や青山などの高級地区に複数の店舗をオープンし、その後に庶民的な地区へと展開する。これは非常に賢いやり方だと思いますね」。

ピカールの掲げる目標はどこまでも大きい。 「フランスでは店舗数が1000店に達しています。日本では恐らくそこまでいかないでしょうが、日本人消費者にとって身近な店になりたいと願っています」とモレッティ氏は力を込める。イオンのアジア・ネットワークを利用して、アジア諸国への進出も検討中とのこと。ひょっとして、フランス 市場向けのアジア食材ラインナップ開発もあるのだろうか?「フランス向けに冷凍寿司を輸出してもいいんじゃないでしょうか?」モレッティ氏は半分冗談めかして言った。

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