遅れを取り戻す

クルーズCEOのカイル・ヴォグト氏

ホンダ、米GMクルーズへの出資を通じ自動運転部門の遅れを挽回

ウェイモからクルーズへ

年初、ホンダ経営陣は米アルファベット(Google系列)の自 動運転車部門ウェイモ(既にジャガー・ランドローバーやフ ィアット・クライスラー・オートモービルズとパートナーシッ プを締結済み)の幹部らと議論を続けていた。しかしホンダ が10月に発表した提携先は、ウェイモを中心に形成された アライアンスと競合するGMの自動運転部門のGMクルーズ ホールディングス(以下、「クルーズ」)だった。 ホンダは自動運転車を開発するクルーズにまず7億5000万 ドルを出資して同社株式の5.7%を取得、その後もゼネラル・ モーターズが2016年に10億ドルで買収したこのスタートア ップに向こう12年間で合計20億ドルを投資するという。今回 のホンダによる新たな投資を受け、ソフトバンクが約20%の 株式を保有するクルーズの企業価値は146億ドルに膨らむ ことになる。 ホンダの倉石誠司副社長は「クルーズ及びGMとの協業を決 めた理由は、彼らが無人ライドシェアや電動化といった先進 領域で業界を牽引していること、また『CO2ゼロ』『事故ゼロ』 という共通のビジョンを持っていたからです」と述べている。

コスト

長きにわたり独立独歩の道を歩んできたホンダだが、モビリ ティ革命の真っ只中で遅れをとっているという認識はあり、 もはや自社単独では非常にコストの嵩む開発分野での遅れ を挽回できないことを理解していた。ボストン・コンサルティ ング・グループ(BCG)の試算によると、世界各地に十分な台 数の自動運転タクシーを普及させるためには、業界の意欲 的な開発・製造業者に対し2035年までに1兆8000億ドルも の投資をする必要があるという。自動運転車に必要なテクノ ロジーの開発費用だけでも、同じく2035年までに450億ドル を要する。このレベルの出費になると、ゼネラル・モーターズ のような企業でさえ他社との共同開発を求めるようになる わけだ。 今回の新たなパートナーシップにより、クルーズ側にはデザ イン分野における日本人エンジニアのノウハウを利用でき るというメリットも。メアリー・バーラGM 会長兼CEOは、ホン ダとの協業で「世界トップレベルの車両デザイン、開発、生産 技術をクルーズに供給することができ、無人ライドシェア事 業のリーダーとしてグローバルな事業展開を実現します」と 述べている。なおGMとホンダの間では既に二種類の協業( バッテリーコンポーネントおよび水素燃料電池システム)に 関する合意が交わされている。 数ヵ月後にはホンダのチームが全く新しいタイプの車両設 計に参画する予定だ。この車両は、日米両社の既存ラインナ ップを単にアレンジしただけのものではない。「ホンダとク ルーズ、GMとの協業で恐らく最も重要な点は、空間効率に 優れた革新的な自動運転車を開発するということです」と述 べるのは、クルーズCEOのカイル・ヴォグト氏(写真)。この33 歳の若きCEO周辺からは、ドライバーの存在に起因する制 約がない革新的な自動運転車を2019年の販売開始に向け て準備しているという噂が数ヵ月前から漏れ聞こえてくる。「 ホンダの参加により、自動運転車生産への歩みはさらに加 速するでしょう」と、カイル・ヴォグト氏は今回の提携に歓迎 の意を示した。

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