自動車:新たなモビリティーの世界へようこそ

自動車:新たなモビリティーの世界へようこそ

ダッソー・システムズ社のギヨーム・ジェロンドー氏:モビリティー革命には大きな変化が不可欠

マイカーとは?

ドライバーが遠くの場所までスピーディかつ安全に移動できる、家族を乗せて買い物に行く、ヴァカンスに出かける等、多様なニーズに応えることが求められる車のことです。ところで個々のマイカーは平均すると全時間の4%しか使用されておらず、1回の使用で乗車する人数もわずか1.3人にすぎません。わかりやすく言えば、自動車本来の能力の1%しか使用されていないのです。つまり、マイカーは最も使用されていない交通手段、ということになります。もっとも、他の交通手段に比べれば一番普及している乗り物なんですけどね。

 

現在進行中の変化を要約すると?

最近流行りの用語で言えば「 CASE(CONNECTED[コネクテッド]、AUTONOMY[自動運転]、SHARED[シェアリング]、ELECTRIC[電動化])ということになります。この4つの単語は相互に関連していますが、ここではひとまず別個にご説明しましょう。自動車はコネクテッド・オブジェクトになりつつあります。つまりその機械的な部分よりも、搭載される電子部品や周辺環境との通信ツールの存在感が目を引くようになった、ということ。車はとても賢くなってきています。渋滞を回避してくれたり、同じ時刻に同じ場所へ繰り返し通っているうちに(例えば毎日お子さんを学校に送り届けるとか、毎週日曜日に教会に出かけるとか……)あなたが行きたいと思う場所を予測できるようになったり、あなたに必要だろうと思われる各種サービスや製品を最適なタイミングで提案してくれたり…… 

 

シェアリングについては?

カーシェアリングは日本(カレコ、タイムズカープラス、オリックスカーシェアなど)をはじめ世界各国で発展しています。ですがこれ以外にも、例えば1台の車が昼間は人を運び、夜間は荷物を運ぶといった用途上のシェアリングなどの可能性もあります。さらには交通状況に応じてリアルタイムで道路の用途を変えることも(この場合歩道部分はバーチャル仕様になり、路面上の光る標識で示されます)…… 今どき、都市部でラッシュアワーに配送トラックを走らせるのが賢明なやり方だとは思えませんからね。

 

自動運転については?

自動運転の定義については様々な意見があります。向こう20年以内の実現は無理だと言う人もいれば、もう実現していると主張する人もいますが、どちらの言い分にも理があります。確かに、私たちが自宅のガレージに自動運転のマイカーを持つようになるのはまだ何年も、場合によっては何十年も先の話ですが、そもそもマイカーという存在が将来的には不要となり消滅する可能性もある、というのが私の考えです。人工知能が熱機関に先んじて開発された世界を想像してみてください。これにより公共交通機関が極めてスムーズに運営されていたら、車を所有する必要などなかったはずです。そしてこれこそ現代の人類が歩もうとしている道なのです。例えばムンバイ、ロンドン、オスロ、アムステルダム、シンガポール、大邱、パリなどの都市では、マイカーのために使用されるスペースがどんどん縮小されています。一方、管理された環境下(例えばバスレーン)における自動運転は既に現実のものとなっています。GOOGLE やGM、百度(バイドゥ)は今から数ヵ月以内、場合によっては数週間もすれば自動運転サービスの開始を発表するでしょう。

 

電動化については?

電気自動車の生産は簡単で、技術の肝はそのバッテリーの中にあります。しかしその普及度合いはまだ十分とは言えません。個々の自動車が置かれたエネルギー供給環境に負うところが大きいですから。ドイツや日本ではガソリンより電気の方が高額で、そのため電気自動車の売上が伸びていません。一方フランスでは電気が安いので、電気自動車にとって好ましい環境になっています。ともかく「CASE」という略語は、これら4つの進化が結びつけば本物の革命が起こる、そのことを改めて実感させてくれる便利な用語です。例えばコネクテッドカーが自動運転さ
れれば、車が必要とされる場所まで自分で走って行けるわけですから、シェアし易くなります。カーシェアリングサービスAUTOLIBの悩みはまさにこの点にありました。ここで提供されるコネクテッド電気自動車は、人気スポットに行くまでは良いのですが、目的地から自分で戻ってくることはできませんからね。

 

こうした変化の行き着く先は?

このようなサービスが始まると、ユーザーは利用する交通手段を見直すことになるでしょう。こうした状況下では、輸送のパラダイムに変化が訪れます。これまで自動車メーカーはその代理店を通じて自社の車両を直接販売していたわけですが、将来的には保有車両群を活用する「モビリティー事業者」が誕生するかもしれません。これらの車両群は情報処理システムで制御され、このシステムが自ら自動車メーカーを選択する。つまり現在の自動車業界とは全く逆方向のサプライチェーンが生まれるわけです。既に自社製の車両を開発し始めている物流企業や、自社専用物流システムを開発する電子商取引企業、さらにはモビリティーサービス分野に参入する自動車メーカーなども増加の一途を辿っています。

 

このような新しい世界でマイカーを購入する意味は?


日本では車の使用形態が2つに分かれていくでしょう。ひとつは軽自動車のように見た目より実益を重視した純粋な実用車。もうひとつは運転すること自体に愉しみを見出す趣味的な自動車です。スタイリッシュな輸入車の販売台数はここ10年間で飛躍的に伸びており、現在では全販売台数の9%を占めるまでに成長しました。アルピーヌ・ルノーの成功が示すように、車にこだわるドライバーはまだ多いのです。数々の有名ブランドを擁するフランスは、こうした流れの恩恵にしっかりと浴していると言えるでしょう。

 

自動車メーカーは今後どう適応していけばよいのでしょう?


地域や個人の嗜好、専門性などの観点から消費者のニーズを出来る限り細かくキャッチしていくことが求められます。私たちの持つこの資源の最適な利用法について考えなければなりません。ものの見方を変え、必要な業務体制や能力を見直す必要に迫られます。またスピード感や即時の対応も以前に増して要求されるようになるでしょう。当社においても、新たな参入者にツールを納入する機会が増えています。日産に勤めていた時には、自動車業界にこれほど多くの参入があろうとは思いもしませんでした。ですが今では数多くのスタートアップが自社製の自動車を開発しています。その一例がNIOです。カリフォルニアと中国、欧州に拠点を持つこの企業は設立後まだ3年ほどの新顔ですが、既に自社の車を販売するようになっています。モビリティーに関係する製品やサービスの開発がこれほど急速に進んだことはかつて一度もありませんでした。これはひとつの革命であり、これによりもっとクリーンで安全な自動車が生み出されていくでしょう。ただし、そのためには関係者自身が大きく変わっていく必要がありそうです。

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