日本での赤身ブーム

Boeuf le Japon fait maigre

「日本」と「牛」という二つの単語 が結びついた時、フランス人の頭にすぐに浮かぶ のは「神戸牛」だろう。ビールを飲ませ、マッサー ジをして育てる牛がいる、というのがフランス人 のイメージにある「ワギュー」だ。ヨーロッパに和 牛の輸入が始まってからは、サシの入った柔ら かい肉を食べる機会があるフランス人も出てき た。しかし日本では、その栄光に翳りの兆しが出 てきている。

日本の消費者は長い間、歩度まり等級をAからC まで、肉質を1から5までで評価する格付けに信 を置いていた。しかし、脂肪のせいで柔らかい肉 を好む傾向は減り、赤身ブームが始まっている。 肉自体は日本では十数年前からブームになって いた。各地に「肉バル」ができ、「肉フェス」も多くの 客を集めている。「肉」の特集を組む雑誌やテレビ 番組も増えた。最初に起こったのはホルモンのブ ーム、そして、ここ4、5年ほどは熟成肉のブームが 起きていた。そんな中で赤身肉が注目されるよう になったということもあるだろう。

日本人は以前に比べると、肉の様々な部位を多 様な調理法で楽しめるようになった。ただ一種類 の肉を珍重していた時代とは変わった。牛肉がハ レの日の料理というよりは日常的な食材になった 今、より廉価で味も濃厚なばかりでない肉に興味 が行くのは当然のことだろう。同時に、アニマル ウェルフェアに意識的な消費者も増えている。例 えば、岩手県ルーツの牛種である日本短角種は、 赤身中心の旨みたっぷりな肉であるだけでなく、 自然放牧、自然交配・出産という育て方からも近 年需要が増えている。かつては男性よりも肉の消 費が少なかった日本人女性たちも、鉄分が多くカ ロリーの少ない赤身肉をヘルシーと捉え、好んで 食べるようになった。

しかしもちろん物事には良い側面だけではない。 このブームに乗じて、国産の高品質の肉ではなく、 廉価で輸入した、単に赤身であるというだけの肉 を提供するレストランも増えている。牛肉の消費 の歴史が長くない日本人は、まだ、牛の全ての部 位やその味の違いをきっちりわかっているとは言 えない。サシの入っている肉だけが珍重されてき たのもそこからきている。

日本人と牛肉との真の関係はまだ始まったばか りだと言える。近年シャルキュトリの作り手が日 本で出てきているが、それぞれの種による味の違 いを理解し、それぞれの部位に適した仕込みや 調理をこなすことができるようになって初めて、 日本での牛肉の消費は新しい局面に入ったと言 えるのだろう。 関口 涼子

 

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