ハンドルを握る手

ハンドルを握る手

進歩する自動運転。 しかし完全自動運転には数十年かかる見込み。

発展途上

日本でも近々自動運転車が御目見えする。2022年に商業化 予定の自動運転車だが、今年6月安倍晋三首相は、2020年の オリンピックに向けた実用化を発表した。内閣は対応できる インフラ整備を行っていく。 しかしそのわりには実際の革新 は立ち遅れており、速やかに、とは言えない。まずは、新しい 自動ブレーキシステムを全新車に装備することが大切なステ ップとなる。自動車メーカーは、2020年までに部分的自動運 転車(レベル4、完全自動運転はレベル5)が実現可能だと自 信を持っているが、「完全自動化にはあと10年から20年はか かるでしょう」とCLSAキャピタルパートナーズジャパンのアナ リストCHRIS RICHTER(クリス・リヒター)氏は言う。 日本の自動車メーカーは、アジアや欧米の競合に遅れをと っていると見られていた。グーグルや、ボルボ、ダイムラー、 テスラ、アップルの名前ばかりが上がっていた。しかし日本 のメーカーグループも、悪くないポジションにある。自動化 には三つのファクターを同時制御する能力が必要だ。まず、 搭載されたカメラ、超音波センサー、レーダー、ライダー(光 検出するレーダー)が全て中央コンピューターにつながっ たメカトロニクス制御システムによって車が周辺環境を理 解する能力。村田製作所、アルプス電気、デンソー、富士通、 パイオニア、クラリオンなど日本の部品メーカーが供給でき る分野だ。次に、他の自動車や道路網と通信できる能力。こ れにはリアルタイムで膨大な情報通信を可能にする5Gネッ トワーク環境の整備が必須だ。NTT ドコモが取り組む。そし て、車外の危険を察知して未然防止するネットワーク能力( 小糸製作所、スタンレー電気など)。

難点よりも利点の方が大きい

日本で自動運転車推進にブレーキをかけているのは何か? どれだけの人が職を失うのか?経済産業省と国土交通省に よると、運転業務に従事している224万人(鉄道、自動車、船 舶、航空機、その他)の内、129万人が路上運送に従事して いる。プレジデント誌によれば、今後10年で130万人が職を 失う。主要関係者は、自動運転車の波が押し寄せることに 腹を括ったようだ。「失業するしかないでしょうね。車全て自 動運転になるんですから」。 あるタクシー運転手は聞いて もいないのにこう話す。一方、自動運転車は高齢者には恩恵を与える。お年寄りが誰より自動運転車を待ち望んでい るのだと、DENA(株式会社ディー・エヌ・エー)でオートモー ティブ事業を率いる中島宏氏は言う。「田舎のお年寄りがい つも私の聞くんですよ。自動運転車はいつ来るんだって。早 く使えるようにしてくれって」。「 村が過疎化して、商店もレ ストランも宅配してくれない。お年寄りは自動運転車が日に 日に進歩しているのを知っているし、自分達は老いとともに 運転事故を起こしやすくなっているのを実感しています。毎 回、運転免許を失うんじゃないかとヒヤヒヤしながら、車で 買物に出かけるんですよ」と中島氏は言う。太平洋の向こう 側でも、ALEXIS OHANIAN(アレクシス・オハニアン)氏が同 じ事を言っている。テニスプレイヤーのセリーナ・ウィリアム ズの夫でもある投資界のスターは、自動運転車ソフト開発 企業CRUISE AUTOMATION(クルーズオートメーション)の 最初の投資者だ。当社はGM(ゼネラルモーターズ)が再買 収し、6ケ月後にはソフトバンクから22.5 億ドル、ホンダから 27.5億ドルの投資を受ける。 「アメリカには高齢者だけの町があります。ほぼ自給自足 状態です。というわけで、これらの土地が自動運転車の理想 的な試験地になり、多くの問題が解決されました。過去を生 きていた土地が、未来を創る土地になったのです!」とオハ ニアン氏は、来日時に熱く語った。自動運転車は将来、車に 束縛されたくない若者にとっても欠かせないものになるだ ろう。特に日本の自動車免許習得費や車検費用は目を剥く ほど高い。駐車料金もしかりである。

自動車:イエロー・クルーズ

まさしく現代版アンドレ・シトロエンの「イエロー・クルーズ 」だ。しかし走行距 離はもっと短く、しかも運転手無し。CRUISE4U(クルーズ・フォー・ユー)はVALEO( ヴァレオ)が高速道路走行用に開発した自動運転車。10月、日本の道路 6700KMを走行した。ヴァレオの最新型センサーを搭載した当車は、支障なく約 3週間の走行を果たした。行程の98%を「自動運転」モードで走行したという。ま さにヴァレオ最新テクノロジーの本格実践テストだ。「レーザーセンサーのいくつ かは、これまで固定型で、建物での使用に限られていました。ヴァレオは車に搭載 できる特別頑丈なセンサーを製造しています。」と、ヴァレオジャパンのチーフテ クノロジーオフィサー、武内稔氏は満足げに語る。「ヴァレオのエンジニアは、日 本の高速道路の特色に関わるデータ(山風、トンネル、日本語標識)を多く収集し ました」と、公式発表で述べられている。

スピード:なぜ5Gが鍵なのか?

5G-V2X :この耳障りな略称が日本の自動運転車に関わる全ての考えの核で ある。V2Xとは VEHICLE-TO-EVERYTHING( 車とモノとの通信)あるいは社会に 存在する車に関連する全てのモノの間の通信を意味する。このシステムは V2V (VEHICLE-TO-VEHICLE:車車間通信)にとって代わるものだ。5G は次世代情報 通信網を一挙に担う。4Gより20倍速く、ほぼリアルタイムでの情報交換が可能だ。 ネットワーク遅延は1000分の1秒から1000分の5秒(4Gは1000分の20秒)。G5 は自動車産業、つまり我々の生活に革新をもたらす。周波数帯域が広くなり遅延 (伝達にかかる時間)が短くなるおかげで、5Gは車と車、車とインフラ、道路網、 通行者の間における確実な超高速情報伝達を可能にする。よって交通状況のリ アルタイム更新、緊急警報、急に近づいてくる車輌の警告などが可能になる。日 本での5G導入は、東京オリンピックを契機に2020年になる見込みである。

環境:排気ガスゼロ...

これこそ自動車メーカーが掲げる目標だ。排気ガスの環境への影響は次第に 深刻になっている。各国が、自動車の大気汚染ガス排出を完全規制禁止する動 きだ。ノルウェーは 2025年、 ドイツとフランスは2030年を目指す。しかし、この目 標は自動車の一斉自動運転化には不都合だ。なぜか?自動運転化は膨大な電力 を必要とする。バッテリーコストが少しずつ下がっているとしても、まだかなり高 い(自動車製造全コストの40%)。日本でのガソリン車廃止がいつになるか目下 未定である。

安全性:…リスクゼロ

1兆マイル(1兆6000万KM)。トヨタ・リサーチ・インスティテュートの取締役会 長GILL PRATT(ギル・プラット)氏によると、これだけの距離を無事故で試験走行 できなければ、自動運転車は絶対安全の信頼を得られない。つまり社会に受け 入れられない。この数値は適当に設定されたものではない。トヨタが毎年世界に 向けて販売する100万台の車の10年分の走行距離(一年に1万マイル)に値する。 極わずかな危険も産業界に許さない社会の厳しい態度を反映している。たとえ 90% 以上の自動車事故が人によるミスのせいだとしても、人間は、ロボットの運 転をまだ受け入れることができないのだ。

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