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イティネレール・サンギュリエ - シリル・コピーニ 漢字への情熱からオランピアの舞台へ。 日本で25年、翻訳とと落語に情熱を注ぐ。

フランス南部出身のシリル・コピーニさん。フランスで日本語教師になる道もあったが、彼の人生を大きく変えたのは、日本の伝統芸能「落語」との出会いだった。
江戸時代に成立した落語は、座布団の上に正座し、扇子と手ぬぐいを小道具に、一人で何役もの人物を演じ分けながら、滑稽噺や人情噺を語る、日本独自の話芸である。
現在、シリルさんは『名探偵コナン』をはじめとする人気漫画の翻訳者として活躍する傍ら、日本で唯一のフランス人落語パフォーマーとしても活動を続けている。
日本とフランス、二つの文化を知る彼だからこそ生み出せる表現を通して、両国の文化をつなぐ架け橋となっている。
「もちろん、苦労はあります。何をしていても苦労するものだから、どうせなら、やりたいことをやったほうがいいと思いますよね」
日本語との出会いが開いた、新たな世界
シリルさんが日本語に出会ったのは10代の頃。学校の選択科目として、たまたま日本語を選んだことが始まりだった。最初の授業で目にした日本語の文字に、強く心を惹かれたという。
その後、交換留学で初めて日本を訪れることになる。そこで初めて出会ったのが、教室で学んでいた日本語とは異なる、日常の中で交わされる「生きた日本語」だった。
人々との交流を重ねる中で、日本語そのものだけでなく、その背景にある文化や価値観にも触れ、日本への関心はますます深まっていった。
帰国後も日本語の学習を続け、専門的に学んだ末、再び日本で暮らすことを決意する。
しかし、そこで改めて気づかされたのは、語学を本当の意味で身につけるには、教室で学ぶだけでは十分ではないということだった。
「結局、言葉はその国で暮らして、人と話して、日々の生活の中で使っていかないと、本当の意味では身につかないんだと実感しました」
落語・大阪から、やがてオランピアの舞台へ
シリルさんが落語を知ったきっかけは、テレビだった。
2009年、大阪で本格的に落語の勉強を始める。仕事を続けながら稽古に励み、2年後には初めて観客の前で落語を披露した。
日本の落語家が経験する伝統的な修業を受けたわけではない。そのため、シリルさんは自身を「落語家」ではなく、「落語パフォーマー」と表現している。
その肩書きには、伝統に敬意を払いながらも、国や言語の垣根を越えて、より自由に落語を表現していきたいという思いが込められている。
そして、翻訳者として培ってきた経験も、落語の活動に大きく生かされることになった。
日本語のユーモアやダジャレ、言葉遊びを別の言語に置き換えるのは、決して容易なことではない。
単語をそのまま訳しただけでは、笑いまで伝わるとは限らない。だからこそ、シリルさんは直訳に頼るのではなく、それぞれの文化や言語、観客に合わせて、表現そのものを組み立て直すことを大切にしてきた。
翻訳の現場で培われた「伝わる表現」を生み出す力は、外国語で落語を披露する際にも大きな強みとなっている。
2016年からは、日本語を話さない観客に向けて、自らの噺を翻案・翻訳して披露するようになった。その反響は大きかった。
日本語が分からなくても、落語ならではのユーモアや、話芸そのものの面白さを楽しんでもらえる。その手応えは、落語が言葉や文化の壁を越えて、世界の観客に届く可能性を示すものだった。
これまでには、フランスを代表する劇場の一つ、オランピアの舞台にも立った。
そして2025年には、大阪・関西万博のフランスパビリオンに出演。観客の大半を日本人が占める中、自らの噺を披露した。
日本で生まれた伝統芸能を、フランス人である自分が、日本の観客に向けて演じる。
その舞台は、日本とフランス、そして伝統と現代をつなぐ、シリルさんならではの活動を象徴する一幕となった。
日本で25年。変わりゆく社会の中で、落語の未来に向かう
日本での暮らしは、すでに25年を超えた。
その間、シリルさんは、日本社会が少しずつ国際化していく過程を目の当たりにしてきた。
落語に対する海外からの関心も高まり、現在では英語によるパフォーマンスにも取り組んでいる。
一方で、これからの落語を考える上で、伝統を守るだけではなく、より多くの人がその魅力に触れられる環境をつくることも重要だと考えている。
その一環として、今後はマスタークラスの開催にも力を入れていきたいという。
シリルさんによれば、好きなことを始めたからといって、すべてが順調に進むわけではない。
思い通りにならないこともあれば、失敗することもある。
しかし、そうした経験も、後から振り返れば一つの物語になる。そして、失敗や間違いから生まれた話ほど、案外、人を笑わせるものなのかもしれない。
大切なのは、困難に直面しても歩みを止めず、自分が目指す方向を見失わないことだ。
シリルさんは、こう語る。
「何が安定なのかなんて、結局、誰にも分からないと思うんです。だからこそ、自分がやりたいことをやったほうがいいと思います。
ただ、何年もずっとフラフラしながら続けるというのも違うと思う。だから、自分の中に一本、芯を持っていたほうがいい。
自分は何をしたいのか、どこへ向かいたいのか。そういうものをしっかり持って、それを軸に選択していくことが大切なんだと思います」
アシェット・コレクションズ・ジャパン株式会社は、アシェット・リーブル・グループの一員として、書店販売と定期購読を通じて、好奇心を刺激する分冊百科をお届けする出版社です。
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このポッドキャストはAmandineとの協力により制作されています。