インタビュー
インタビュー「ビジネス : 日仏交差する視点」- アンダーズ 東京が再定義するラグジュアリーライフスタイル

本シリーズ「ビジネス:日仏交差する視点」では、東京を代表するラグジュアリーライフスタイルホテルの一つであるアンダーズ 東京 虎ノ門ヒルズの総支配人、トマ・ヴィダル氏にお話を伺いました。日仏の視点が交差するビジネスの現場で、同ホテルを率いる氏の経験や考え方についてご紹介します。同ホテルは単なる宿泊施設ではない。滞在の場であると同時に、文化やイベントが交差する空間でもあり、「泊まること」そのものと同じくらい「体験すること」に価値を置く場所だ。
「東京のラグジュアリーホテルは、いまや“体験”の舞台となっている」
フランスの名門ビジネススクールESSECを卒業した同氏は、キャリアの大半をアジアで築いてきた。なかでも日本との縁は深く、すでに12年以上にわたって日本で暮らしている。
ラグジュアリーホテルは “体験” の時代へ
コロナ禍後の国際観光需要の回復を背景に、東京は世界有数のラグジュアリー観光都市として存在感を高めている。これまでこの分野では、パリやロンドン、ニューヨークほどの存在感を持たなかった東京だが、近年は急速な成長を遂げている。一方で市場には、日本ならではの「おもてなし」の精神と、長い歴史を持つ老舗ホテル文化が色濃く根付いている。そのため海外のホテルグループも、日本市場特有の高い期待に応えるため、相応のサービスや運営が求められる。 またパンデミック後には国内旅行やステイケーション需要の拡大によって業界は力強く回復した。こうした変化のなかで、ホテルはもはや宿泊だけを提供する場所ではなくなっている。
日本市場 ― 細部へのこだわりと変化する顧客ニーズ
日本の顧客は、依然として細部への高いこだわりを持つことで知られている。しかし一方で、若い世代を中心に価値観は変化しつつある。滞在そのものを楽しむ没入型の体験や、現代的で視覚的にも魅力のあるホテル体験を求める傾向が強まっているのだ。
こうした細部への徹底したこだわりは、日常的なホテルサービスにも表れている。象徴的なのがスリッパだ。客室に入った瞬間に目に入るスリッパの存在、品質、履き心地は、サービス全体の印象に大きな影響を与える。国際的な旅行者にとっては見過ごされがちな要素かもしれない。しかし日本では、そのような細かな点が滞在全体の満足度を左右することも少なくない。
「スリッパが見つけにくかったり、品質が十分でなかったりすると、顧客満足度は大きく下がってしまいます」
国際的な環境におけるマネジメントと企業文化
こうした複雑な環境のなかで、トマ・ヴィダル氏が最も重視しているのは「人」である。ホテルの価値を最終的に決定するのは施設ではなくチームだという考え方だ。そのマネジメントは、従業員を大切にすることを軸としたリーダーシップに基づいている。東京のような国際都市にあるホテルでは、多様な国籍や文化的背景を持つスタッフをまとめることが日常的な課題となる。しかし、この多様性こそが創造性を生み、新たな発想を促し、ますます国際化する顧客ニーズに応える力につながっている。トマ・ヴィダル氏の歩みは、日本のラグジュアリーホテル業界が現在迎えている変革を象徴している。そこでは日本が誇る伝統的なサービスの卓越性と、体験価値を重視する国際的なホスピタリティの考え方が融合しつつある。観光需要の拡大、ライフスタイル志向の高まり、そしてホスピタリティの再定義。東京は今、世界のラグジュアリーホテル業界にとって、新たな価値創造の最前線となっている。