インタビュー
ビジネス:日仏交差する視点 ― ティファール70周年、日本で50年の歩み

本シリーズ「ビジネス:日仏交差する視点」の最新回では、株式会社グループセブ ジャパン代表取締役社長のジュリアン・マジョール氏を取材した。1956年にフランスで誕生したブランド「ティファール」は今年で70周年を迎える。一方、グループセブは日本市場で50年以上にわたり事業を展開している。海外メーカーが限られた存在感しか示せていない日本の家電市場において、同氏はフランス企業が世界でも屈指の厳しい市場で成長を遂げてきた背景について語った。
グループセブでは、消費財事業、人事、国際マネジメントなど幅広い分野で経験を積み、現在は日本法人を率いている。長年にわたる国際経験、とりわけ日本での事業経験を通じて、日仏間のビジネスにおいて重要となる「謙虚さ」「協調」「合意形成」といった価値観についても言及した。同氏は、日本では正式な意思決定に先立ち、関係者との合意形成を丁寧に進めることが重視されていると語る。
「正式に公表する前に、水面下で認識を合わせることが重要です。」
高い品質が求められる日本市場
ジュリアン・マジョール氏は、日本市場における最大の課題として、その極めて高い品質基準を挙げる。日本の消費者は製品そのものだけでなく、パッケージを含めたあらゆる顧客体験を評価対象としている。
不良のない品質が求められる市場環境の中で、グループセブは海外向け製品をそのまま投入するのではなく、日本の生活様式や消費者ニーズに合わせた製品開発を重視してきた。そのため、日本法人と海外の研究開発拠点が緊密に連携し、日本市場に適した製品づくりを進めている。
成長を支えるイノベーション
ティファールが日本市場で確かな地位を築いてきた背景には、継続的なイノベーションがある。2000年代初頭、まだやかんで湯を沸かす家庭が一般的だった日本で電気ケトルを発売し、「短時間で沸かせること」「安全性」「省エネルギー性」といった新たな価値を提供することで、新しいライフスタイルの定着に貢献した。
現在もその姿勢は変わらない。欧州と比べて住空間がコンパクトな日本では、多機能で省スペース、使いやすい製品へのニーズが高い。こうしたニーズを踏まえ、グループセブは日本の食文化を象徴する炊飯器市場にも参入した。中国子会社が開発した赤外線加熱技術を活用し、日本市場向けの商品開発を進めている。
時間をかけて合意を形成し、迅速に実行する
製品開発だけでなく、ジュリアン・マジョール氏は日本のマネジメント文化にも触れた。欧州と比べると、日本では意思決定までに時間をかけて関係者との合意形成を図る傾向がある。しかし、一度方向性が定まれば、組織全体が共通認識を持ったうえで、一体となって迅速に実行へ移すことができる。海外から赴任するマネージャーには、高い傾聴力と、自らの考え方を柔軟に見直す姿勢が求められる。同氏は、「海外から来たマネージャーこそが現地の環境に適応すべきであり、その逆ではない」と述べている。
フランスで製造し、日本市場に合わせる
一般的なイメージとは異なり、日本で販売されるティファール製品の多くは、現在もフランス・サヴォワ県にあるグループの工場で製造されている。こうしたフランスでのものづくりは、同社の競争力を支える重要な強みとなっている。
一方で、日本の消費者の中にはティファールを日本ブランドだと認識している人も少なくなく、それだけ日本市場への定着が進んでいることがうかがえる。
成熟市場である日本において、グループセブは既存市場での競争にとどまらず、新たな製品カテゴリーの創出を重視している。ジュリアン・マジョール氏は、「既成概念にとらわれず、新しい価値を提案できる企業こそが、保守的といわれる市場においても持続的な成長を実現できる」と語った。