インタビュー
ポッドキャスト Itinéraires singuliers - 金融市場から酒蔵へ:セバスチャン・ルモアンヌ氏が見出した意味
![[Translate to Japanese:] Itinéraires singuliers - De la salle des marchés aux maisons de saké : le sens retrouvé de Sébastien Lemoine](https://aws-a.medias-ccifi.org/fileadmin/cru-1770375598/japon/user_upload/Miniature_Sebastien_Lemoine_2.png)
国際金融で堅実なキャリアを歩んできたセバスチャン・ルモアンヌ氏は、長年勤めた金融の世界を離れ、日本酒という全く別の領域へと舵を切りました。一見すると大胆な転身ですが、本人にとっては「意味を取り戻すための必然だった」と語ります。成果主義と緊張感が支配するトレーディングの現場で、次第にエネルギーがすり減っていく感覚を覚えていたといいます。世界金融危機の衝撃、そして2011年の東北の震災は、その思索を深める契機となりました。
ルモアンヌ氏が日本を初めて訪れたのは1986年、学生時代のことです。以来、定期的に通い続け、やがて長期滞在するようになりました。若さと活気に満ちていた当時の日本は、年を重ねるとともに社会のリズムが変化しましたが、氏の日本への愛情はむしろ強まっていったといいます。徒歩や自転車で都市や地方を巡りながら、自然と「自分の居場所」のような感覚を見いだしていきました。
日本酒と本格的に向き合い始めたのは2008年頃です。氏が魅了されたのは、ただの酒ではなく、丁寧に造られ、長い文化に裏打ちされた一本一本でした。日本の職人技について「単なる職業ではなく“道”である」と語る氏は、気候や米、微生物の変化を受け止めながら、到達することのない理想に向かって歩み続ける姿勢に深い敬意を抱いています。たとえば神戸の剣菱は、その年ごとに50年分のストックをブレンドし、伝統の味わいを守り続ける蔵元の一つとして挙げられます。
一方、日本酒の国内消費量は50年で4分の1に減少し、多くの蔵が後継者問題に直面しています。この状況下でルモアンヌ氏が選んだのは、「造り手」でも「流通業者」でもない、第三の立場でした。日本酒文化を海外へつなぐ「伝える人」です。氏は自身の会社「Passerelle(パスレル=橋)」を立ち上げ、日本の蔵元と海外の愛好家を結ぶ役割を担っています。現在はル・コルドン・ブルーやテンプル大学で教鞭を執り、講義やテイスティングを通じて日本酒の魅力を伝えています。
活動を続ける中で、蔵元から受けた温かな歓迎は印象深いといいます。慎重な反応を予想していたところ、実際には伝統に誇りをもちつつも謙虚で、経済的な困難を抱える職人たちが多かったとのことです。ある千葉の蔵では、女性杜氏が交流の記念にと、自身の生まれ年である1952年の酒を特別に開けてくれたこともありました。氏の真摯な関心と知識が、こうした信頼を生み出していきました。
日本で専門性が信頼の基盤となることも、ルモアンヌ氏は重々理解しています。金融の専門家から日本酒という新たな分野へ移るには、製造工程からカテゴリー、慣習に至るまで学び直しが必要でした。こうした地道な積み重ねと蔵元からの信頼が、氏の活動の幅を広げていきました。
氏のアプローチの特徴は、外からの視点を積極的に取り入れている点です。蔵元が「水・米・技術」といった技術的説明に重点を置きがちな一方で、氏は「味わいの体験」や「料理とのペアリング」を重視します。フランスのワイン文化の素養を生かし、洋食やチーズとの組み合わせ、料理と相互作用する日本酒の楽しみ方を提案しています。これは縮小する市場に新たな可能性を示すアプローチでもあります。
さらに、氏は日本酒に付随する文化的・象徴的側面にも関心を寄せています。たとえば、儀式や祝い事で使われ、もとは米の計量器であった「升(ます)」など、日常の道具にも日本文化の物語が宿っています。
セバスチャン・ルモアンヌ氏の歩みは、派手な転職劇ではなく、長い年月をかけて育まれた静かな移行の物語です。文化・技術・伝承が交わる場所として日本酒を選び、22年以上の日本での暮らしの中で、日本の伝統と、海外の新しい視点を持つ人々との間に橋を架け続けています。
ルモアンヌ氏は、ポッドキャスト « Sake on Air » のホストも務めています。
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このポッドキャストは Anna との協力により制作されています。