UBIC : この会社、○○にして
ゆめゆめお忘れなく。あなたの小さな秘密、大きな秘密、みんな丸裸にされますよ。
目立たぬように……
UBICという日本企業をご存知だろうか?一般大衆にはほとんど知られていない。2007年6月の東証マザーズ上場後も水面に浮上することなく、潜行を続けている。都会派センスあふれる経営者、守本正宏氏は元海上自衛隊員にして、人柄は控え目そのもの。しかしUBICとは空恐ろしい「駆け出し」企業だ。「ビジネスのグローバル化」と「公私の使い分け」という現代の二つの大きな潮流がぶつかり合う潮目を解析する技術を開発してしまったのだ。自ら開発したITツールを使い、私たちの誰もが持っている、他人には覗かれたくない最も恥ずかしい秘密まで暴き出すことができる。
電子メールの中身ほど公私混同の甚だしいものはない。私たちは、こと電子メールに関しては、いまだ無邪気な幼年期を生きているのだ。思いつくままに、あけすけな誹謗中傷や赤裸々な愛情表現を並べ立てるが、そのメッセージはずっと機械上に残り、無限に複製され、世界中の人々に知れ渡ってしまう可能性さえあることはすっかり忘れている。このことをよく理解したのは司法の権威者たちで、その頂点に立つのがアメリカの合衆国司法省(DOJ)と連邦捜査局(FBI)である。10年でコンピューター・フォレンジックは合衆国司法捜査の主要ツールとなってしまった。大部分の有力証言は電子メールの中から見つかる。
この技術の大躍進で幸運をつかんだひとりの日本人がいる。UBICだ。同社は途方もないコンピューター・フォレンジック用ソフトウェアを開発した。なんと10年前の、しかも削除されたメールを見つけ出せるというのだ。「電子メールの中にはすべてがある。」東京の執務室で創業社長の守本氏は語る。氏の部下たちは司法当局からの依頼で、日本最大級企業の内部メールのやりとりをつぶさに解析しているところだ。
グローバリゼーションの申し子
UBICは司法捜査のグローバル化の申し子だ。コンピューター・フォレンジック業務を開拓したアメリカの情報会社FTIの事業モデルに基いて開業した。FTIは主に英語のメッセージを取り扱っているが、UBICはアジア言語で書かれた電子メールの解析に最適のソフトを開発した。「FTIはメールをスキャンしてから読みとらせなければなりません。でも、我々の方はメールの本文を直接調べられます。こちらの方がずっと早いし安上がり」と守本氏は断言する。
UBICの主要顧客は今のところアメリカの行政機関である。「例を挙げましょう。競合会社と価格協定を結び、アメリカの消費者に損害を与えたという疑いで、司法省がある会社の捜査を行うとします。どこでそのような事実があったのか、アメリカなのか、日本なのか、あるいはよその地なのかはどうでもいいことです。嫌疑をかけられた企業の担当弁護士は、社内でやりとりされたメール複数年分の内容の検査をUBICに依頼してきます。彼はその後メールを司法省や欧州委員会に提出するのです。」と説明する守本氏。UBICのサービスを利用している弁護士が言葉を次ぐ:「UBICは私が代理人を務める企業のハードディスクにバーチャル探偵を放ちます。一連のキーワードを使って、事件と関係ありそうなメール約一万通を洗い出し、少しずつ検索の精度を高めていき、ついには協定の責任者を起訴するに足る内容のメッセージを見つけるのです。」
遅れている日本
利用法は無限にある。飛行中のトラブルが続出し、運航できなくなったボーイング787型旅客機の屈辱の原因も、もしかしたらボーイング社と資材提供企業との間で交わされたメールの中に見つかるかもしれない。またアメリカ運輸省道路交通安全局(NHTSA)は、2008年、トヨタ製自動車に発生したブレーキの問題を究明すべく、企業内でやり取りされたメールを調査した。「彼らは時間を無駄にする前に私に電話すべきでした。」と守本氏は茶化して言う。
UBICの権限には背筋が寒くなるほとだ。企業は従業員が不法あるいは不正直な行為をはたらいたのではないかとの疑いを抱いた場合、すぐにでもこの従業員のコンピューターの内身を調べる権限をUBICに委譲することができるのだ。経営陣が黙っている限り、嫌疑をかけられた当人は何も気づかないだろう。「電話盗聴は法によって厳しく制限されていますが、電子メールに関してはきわめて大様です」と守本氏。
調査費用は百万円
アメリカ、ヨーロッパにおけるコンピューター・フォレンジックの進歩は、日本の遅れを浮き彫りにする。欧米では、あるひとつの会社に対して調査を行うとき、国はUBICの調査費用を会社に負担させる。被疑者にとって、調査の方法は、それはそれは恐ろしいものである。いかなる秘密も保護されないからだ。「日本の公正取引委員会は独自の調査員を送り、容疑者のハードディスクを押収して取り調べます。彼らの頭には「フォレンジック」の「フォ」の字もないので、著作権侵害行為だけを血眼になって捜します。わたしの顧客は外国人ばかり、残念なことです。」と守本氏は嘆く。彼は世界中の大手弁護士事務所にその存在を知ってもらおうと、ワシントンとロンドンに支店を開設した。