まだまだ「ガイジン」扱いの外資系企業

外資系企業と日本企業との間には、変わらぬ壁が立ちはだかっている。だがそれもいずれ消滅されるだろう。その理由は――。


「管理職がなかなか見つからない・・・」という絶望的な企業の声。外資系企業はかねてより同じ悩みを訴えてきた。日本進出の難しさ、それは何よりもまず人材確保の難しさである。現在、状況はさらに悪化していると言われている。「大学新卒者の採用は年々難しくなってきています」と述べるのは、在日フランス商工会議所で人材開発部長を務めるナタリー・ボティネリ。「リーマンショック以降、求職者が街に溢れていましたが、今ではアベノミクスの影響で人手が全て建設業界に流れ込んでいる状態」と、ヴェオリア・ウォーター・ジャパンの人事・コミュニケーション本部長で、CCIFJ人材開発委員会の委員長を務める中山多美恵氏は述べる。 


逃した好機
この20年、外資系企業はもっと多くの日本人学生を採用していても不思議ではなかった。これら外資系企業には、学生の関心を惹きつける魅力が揃っているからだ。安定志向を求めているのか? 市場規模が年々縮小傾向にある日本にあって、世界各地に広く展開する外資系企業は、長期的に見れば日本の企業よりも安定していると言えるのはないか。しかも外資は日本企業より給料がいい(その一方で後者は終身雇用を保証しているわけだが)。さらに、外資系企業では仕事と家庭の両立が図り易いということ、この点について異議を唱える人はいないだろう。「弊社では単身赴任を強制されることなんてありませんよ。」シュナイダーエレクトリックの和田哲氏は、管理職を家族の元から遠く離れた場所に単身で長期派遣するという、日本企業ではお馴染みの習慣に触れながらこう述べた。 

しかしアベノミクスは間違いなく日本企業を勢いづけ、2年前から採用数も増加に転じている。この景気回復で日本の企業は息を吹き返し、外資系企業に就職してみようかという大胆な学生の考え方を収縮させる結果と招いた。「日本企業には資金力がありますし、学生の数も減っていますから、(外資系企業にとって)人材獲得は日に日に難しくなっています」と、あるフランス企業日本支社の人事部長は説明する。 

大学卒業前から就職に向けた準備を始めるという日本独特の習慣も、外資系企業にとっては相変わらず不利な要素だ。多くの学生は4年間の大学生活で専門知識を身に付けるわけだが、終身雇用を前提に学生を採用し社内でその教育を行う雇用者側は、彼らの「専門知識」にさほど重きを置いていない。学生は3年生になると同時に活発な就職活動を開始する。「こうした就職のシステムは害悪です。なぜなら条件の良い就職先を獲得したければ、学生は卒業前の2年間を日本国内で過ごすのが得策だからです。彼らは敢えて留学というリスクを冒すことができないのです。中には就職した後でMBA取得のために留学する人もいますが、キャリア途上で留学するとなれば、少なくとも学生生活の終わりを外国で過ごすこと以上のリスクを背負うことになるのではないでしょうか。 学生時代にグランゼコールで1年過ごしたほうが、社会人としてMBAを取るため1年過ごすよりずっと実り多いものですよ!」と、日本の学生を相手にエセック経済商科大学院大学(ESSEC)の日本代表 大森順子氏は強調した。 


マイナスイメージ
外資系企業は、マイナスイメージの払拭という課題も抱えている。国際的に非常に名の知れた会社であっても、日本国内での知名度はいまひとつという場合が多い。「日本の一流大学を卒業し、一度も海外滞在経験のない学生は、まず日本企業を選びますね」と前述の人事部長は言う。またシュナイダーエレクトリックの和田氏も「とにかく弊社はまだ知名度が低いです。エレベーターの製造会社と間違われたりするんです」と冗談交じりに語る。「有望な学生の関心を惹きつけることはできるんです。わが社の哲学を語れば、才能ある若者が必ず興味を示してくれます。」と和田氏。ロバートウォルターズジャパンのデイビッド・スワン氏は、こう述べる。「多くの日本人は、外資系企業で働くということは、長時間労働により確かに高い給料がもらえるが、その一方で突然リストラされるリスクもあるというイメージを持っています。弊社の調べによると、日本人は給料よりも安定雇用を優先するという結果がでています。さらに困ったことに、高給だと何かリスクがある仕事を押し付けられるんじゃないかと心配している人もいるほどです! 若き新卒社員の関心はいくら稼げるかではなく、いかに楽しく仕事をすることができるかが重要なようです。」 


長い目で見れば勝ち組に

だが長期的に見れば、いずれは外資系企業の魅力が新卒者にも理解される日がやって来る――そう企業側は確信している。最大の理由は、日本企業がもはや社員の終身雇用を保証できなくなってきていることだ。「その点から見て、今では日本企業と外資系との間に違いはさほどありません。ですがこうした状況を新卒の若者たちはまだよく理解していないようです。採用された企業で20年後にもまだ職が確保できている保証はない現実を学生たちがまだ感じていないのだと思います」と前述の人事部長は述べる。 

一方で、そんな外資系企業にとって女性は有望な戦力としてみなされている。日本企業ではキャリア展望を描くことが難しいという事情もあり、やる気や好奇心のある女性たちがこれら外資系企業に活路を見出しているのだ。「わが社の部長クラスの20%は女性が占めるべきだと思いますが、これを実現するためには女性社員自身にその可能性を自覚してもらう必要があります」と同氏。また和田氏は「日本の新卒者の皆さんには、広く世界を舞台に仕事をしていただくということ、外国駐在のチャンスがあるだけでなく、日本に居ながらでも高度にグローバルなプロジェクトに携わることができると説明しています」と前向きに語った。



コラム:外資系企業における採用の難しさについて、在日フランス商工会議所 人材開発部長 ナタリー・ボティネリが答える。

「フレンチビジネスキャンパス」について教えてください。

毎年、明治大学と共催で日本人学生を対象に開催するイベントで、フランス企業の知名度アップを図ることが目的です。学生たちが就職先の選定にあたり、未知の会社を避ける傾向は今も変わりなく、彼らは日本の産業界に定着している日本企業のビッグネームを好む傾向があります。何らかの専門技能を身に付けるよりも企業への帰属を重んじる日本では、外資系企業で働くことは社会的にも特別な意味合いを持っています。例えばトヨタのマーケティング部長なら、マーケティングの専門家という以前にまず何よりもトヨタの社員であるということが世間的に重視されるわけです。 


学生たちが躊躇する理由は?

日本の若き新卒者は、今なお成果主義より年功序列に基づくキャリアシステムを好んでいます。日本の人事評価では、管理職ですら部下の業績評価をしたがらないというのが現状です。日本の企業は彼らに雇用の安定を保証してくれます。その一方で、日本では大学3年の時点で既に就職に向けて規定ルールに沿った就職活動を開始する必要があります。来年の新卒者は卒業まで1年を残したこの時期に、早くも職探しを開始しているわけです。就職先が決まれば彼らは企業にしっかりと囲い込まれ、定年を迎えるまで2~3年毎に昇進していきます。通常つつがなく推移していくこのキャリアシステムは、日本人が外資系企業に転職することの妨げとなっています。なぜなら一度外資に転職してしまうと、日本企業に再び戻ることが非常に困難になるからです。そして最後にもうひとつ、日本が現状ほぼ完全雇用を実現しているという点も挙げておくべきでしょう。こうした状況の中、好んでリスクを取りにいく人は多くありません。


フランス企業への就職に関しては、男性より女性の方が積極的ですか?

フランス企業に就職する女性は、典型的に2つのパターンに分かれます。ひとつは日本企業にうまく馴染めなかった人。そしてもうひとつはフランス語能力を活かしたいと考えている人です。一般的に、外資系企業では日本企業より女性のキャリアアップに有利な環境が整っています。日本企業では、いずれ子育てのために離職するだろうという考えが未だに残っており、会社の中での女性の立場が弱いままなのです。

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