みんなでオンライン!

日本にもゆっくりと、しかし着実に電子商取引の波が押し寄せている。その理由を探ってみよう。

異なる二つの顔
電子商取引に関し、日本という国は異なる二つの顔を持っている。事実、ユーロモニター社の調査によると2014年に日本で行われた電子商取引は690億ドルに達し、ネット上での取引額で見ればこの国の世界ランクは堂々の第4位である(フランスは第6位)。だが日本人の買い物に占めるオンラインショッピングの割合は今なお6%に留まっており(フランスと同レベル)、既にこの数値が8%に達している中国や米国に遅れをとっている。世界第3位の経済大国であり、モバイル全盛のハイテク先進国でもある日本が、こと電子商取引になるとなぜこれほどまでに用心深くなるのか。
まず考えられるのは、非の打ち所のない実店舗ネットワークの存在が足枷になっているということだ。お隣の大国、中国にはオンライン取引の発展を阻むこの種の遺産はない。「日本における電子商取引の伸びは他のアジア諸国、特に中国との比較でみるとかなりのんびりしたものです。手近に『実』店舗がない中国人は、すぐにネット上での購買に流れます。10年後には電子商取引が全体の40%を占めるだろうとも言われています」とCLSA のアナリスト、エリノア・レオン氏は述べている。
日本では毎日の通勤途上にちょっとした買い物をする時も、コンビニエンスストア(コンビニ)にスーパーマーケット、専門薬局やドラッグストア、さらには自動販売機など選択肢が多すぎて困るほどだ。これらの店舗、中でもコンビニは顧客を飽きさせないよう絶え間なく新商品を打ち出しており、物色する楽しみが多いという点ではネット上の販売サイトに相変わらず一歩先んじている。
もう一つの物理的な障壁は、日本の狭い住宅環境だ。小さなアパートに住んでいると、配達日時を気にしながら、なおかつ送料を払ってまで、基本的にかさばる通販での買い物を届けてもらおうという気にはなりにくい。

遅れの挽回
明るいニュースも紹介しよう。日本は電子商取引分野での遅れを挽回しつつあるようだ。ユーロモニターの予測によると、2020年にはオンライン販売が全体の11%に達する見込みだという。新世代スマートフォンが電子商取引の「扉を開き」、多くの日本人がこの「大量消費兵器」をポケットの中に入れて持ち歩くようになった。スマホの最新型端末は旧モデルよりもワイドな画面で明るく、また操作性の良いアプリなども付属しており、気軽に「ポチる」ことが可能だ。そして販売サイトは世界最速の部類に含まれる国内通信インフラに支えられている。オンライン市場が新しい時代の幕を開けた――このことは、電子商取引大手の楽天を率いる三木谷浩史氏の発言にも明らかだ。同氏は先日開催された出店者向けの楽天新春カンファレンスで、今年の元日売りではグループとして初めてモバイル端末からの購買が多数派を占めたと述べている。

もう怖くない
日本人のネット購買が増加している背景には、オンライン取引に対する警戒心が薄れてきたという事情もある。10年も前から頭角を現わしてきた若い世代は、言ってみれば携帯電話を握って生まれてきたようなもので、オンラインで商品を買うにあたって上の世代が感じていたような不安に捉われることがない。
こんな新しい世代のために、ウェブ上にはピュアプレイヤー(インターネット専業でビジネス展開する企業)の中から楽天やAmazon、Yahooショッピング、Zozotownに価格.comなど安定した経営基盤を持つブランドが続々登場している。これらのサイトの大半は、開設からまだ10年経過していない。彼らは一般消費者向け広報としてこれまで避けて通れなかったテレビコマーシャルを鼻であしらい、ネット上のみでPRを展開しながら、歴史ある販売店に並ぶ地位を手に入れた。これらの電子商取引各社は、商品のチョイスと品質で一歩先を行っている。特に品揃えの豊富さにかけては、既に競合相手の実店舗に引けをとらない。例えば楽天は現在4万軒を数えるオンラインショップを擁し、取扱商品の数は実に1億6800万点にのぼる。これがYahooショッピングでは1億5000万点、Amazonジャパンでは1億点に達する。
従来からの実店舗型企業は、果たしてインターネットのもたらす大きな変化を意識しているのだろうか? 今のところはこうした変化をフォローしていない、もしくはインターネットを従来型の販売方式のおまけ程度に考えているかのどちらかだろう。例えば、三越伊勢丹のオンライン販売が同社の売上高全体に占める割合はわずか0.007%に過ぎない。またファーストリテイリングなどでもネット上での売上が全体に占める割合はせいぜい5%、ビックカメラでも8%である。
治安の良さで知られる日本のような国では、自宅への商品配送に伴う不安はない。大手ブランド(例えばソニーなど)では個人情報の流出事件などもあったが、それでも消費者側の不安は徐々に解消されつつある。あなたの知らないホテルの受付係にカード番号を教えるのも、セキュリティ対策万全のウェブサイトに番号を入力するのもリスクとしては大差ないのではないだろうか。

誰でも店長
日本の「新品至上主義」は、過去のものになりつつある。日本人は中古品の購買を厭わなくなり、自ずと売る側も勢いづいている。モバイル機器は、簡単に三行広告を出せる新時代のツールだ。商品の写真1枚と短い説明文さえ用意すれば、誰でも即席の売り手になれる。フリマアプリ「メルカリ」を開発した山田進太郎氏は、こうした時流をしっかりと捉えた一人だ。アプリを使用するにあたり必要なのは、携帯電話ひとつだけ、3分もあれば簡単に自分の商品を売りに出すことができる。このアプリ、日本国内で既に400万回以上のダウンロードを記録しているという。ネット利用者がこのアプリを使って日々新たに売りに出している商品の数は数十万点。日本国内での成功を受け、メルカリは米国に事務所を開設、これからE-bayなどの中古品販売アプリに真っ向勝負を挑む。

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