アメリーの里帰り

「20歳の頃、私は日本人になりたかった。それが人生の目的だった」。映画『Tokyo fiancée(仮:東京フィアンセ)』の予告編はこのように始まる。2015年3月4日に封切りされたこのステファン・リベルスキー監督作品の原作は、2007年に発表されたアメリー・ノートンの有名な小説『Ni d'Eve ni d'Adam(仮:赤の他人)』である。この本が出版される数年前、彼女は『畏れ慄いて』でフランス全土を笑いの渦に巻き込んだ(と同時に多くの日本が好きなフランス人の怒りを買った)。日本商社に勤務する若いベルギー人女性の身に降りかかる受難の日々を描いたこの作品は、アラン・コルノーにより映画化されている。外交官を父に持つベルギーの作家、アメリー・ノートンはこの作品で一躍表舞台に登場、以来変わらぬ人気を保ち続けている。
『Ni d'Eve ni d'Adam』は、『畏れ慄いて』よりもずっと「爽やかな」物語である。ここで語られるのは、若きフランス人学生アメリーが発見する日本の姿だ。アメリーの案内役は完璧に切り揃えた爪の先まで100%日本人男性のリンリ。どこか謎めいたところがある一方でとても感じが良く、身を粉にして相手に尽くす若者である。リンリはアメリーが行うフランス語講座のたった1人の生徒。ここには旧来の伝統に捉われない日本人の姿が映し出される。リンリは「その他大勢とは異なる人間」であり、彼自身そうあり続けたいと望んでいるようだ。彼は恋人のアメリーと一緒にいても、いつも授業中の生徒みたいに振る舞う。何かと「Excuse-moi(ごめんね)」を連発する彼をアメリーがたしなめる、だがそこでリンリが反射的に返した言葉は…… やっぱりいつもの「Excuse-moi(ごめんね)」。映画の一コマを寄せ集めた駆け足の要約になってしまったかもしれない。しかしこれを毎秒30コマで撮影すると、素敵な映画に生まれ変わる。日本での公開を楽しみに待とう。

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