キーパーソン

ニュースキャスターから政治家に転身、そして次なるポストは……。数週間前、ルノー社外取締役に就任し、世間をあっと言わせた異才の横顔にせまる。



サプライズ人事

えっ、小池百合子がルノーの社外取締役に？ 仏自動車大手ルノーの取締役会には資本提携先、日産のために社外取締役の席が二つ用意されている。4月18日、ルノーはそのうちのひとつに小池氏を抜擢、伊佐山健志氏の後任に据えた。「伊佐山さんとはかれこれ30年来のつきあい。経産省の高級官僚から日産の副会長に転身し、日本経済のために大変尽力されている方」と小池氏は議員会館事務所で語る。壁の掲示板に目を転じると、彼女のこれまでの足跡がたどれる。その第一歩がしるされたのは、カイロ大学への留学時代のことだ。小池百合子氏は日本では数少ない親アラブ派の政治リーダーである。事務所の壁には中東の主だった国家元首らとの会見写真が並ぶ。最近では、猪瀬直樹東京都知事の中東諸国をめぐる一騒動で、実に不愉快な思いをした。東京が2020年のオリンピック招致をめぐり、イスタンブールとしのぎを削っているまさにその時、あろうことか、猪瀬都知事の口から「イスラム諸国に共通のものはアラーの神のみ」という問題発言が飛び出した。「知事は小学校に戻って勉強し直されたほうがよろしいのでは」と小池氏はばっさり斬り捨てた。



ニュースキャスター

小池百合子氏の人生の第二ステージはニュースキャスター時代である。数々のテレビ局に出演し、さだめしフランスの人気キャスター、クリスティーヌ・オクラント氏の日本版といったところだ。小池氏はテレビ東京の看板経済番組、「ワールドビジネスサテライト」で初の女性メインキャスターとして起用され存在感を示した。彼女の人生で三番目にして、おそらく最後のステージ、それが政界だ。1993年から衆議院議員を務め、環境大臣、防衛大臣を歴任。思想的には「経済的自由主義」と愛国主義とを併せ持つ。彼女は常に「男社会の中で孤軍奮闘する女性」像を演じてきた。事務所の目立たない一角に貼られた一枚のポスター。そこには歴代自民党総務会長47人の顔写真が並ぶ。そのうち唯一の女性が小池氏である。事務所のスタッフにはひとりの男性も見受けられない。先の衆議院選で大勝した自民党の「政権公約」の中には、女性を責任ある地位に昇進させる、とうたわれていた。だが小池氏は、これには半信半疑だ。「日本では、女性の昇進というのは仏教のマントラのようなもの。『2020年までに指導的地位に女性が占める割合を30％以上とする』という漠然とした目標があるだけで、しかもそのお題目はもう15年も前から唱えているもの。日本は本気で女性の登用を推し進めなくては。その点フランスはうらやましい限り」と小池氏。彼女が思うに、ルノー取締役への抜擢には自分が女性であることが大いに関係しているのではないか。ルノーグループは、他のフランス大手企業と同じく2017年までに取締役の40％に女性を起用しなければならないのだ。小池氏を中傷する者はこう言うかもしれない：「彼女がキャリアを築けたのはその資質が優れていたからというわけではなく、日本の政界に女性を登用しようという気運に乗ったまでのこと。」





女性とエコロジー

小池百合子氏は、自分のルノー社外取締役起用の決め手となったのは、環境大臣としての経歴であろう、と踏んでいる。今、彼女ははっきり言える：「自分は日本人の環境意識を高めるのに貢献できた」と。とりわけ、夏は涼しく冬は温かい服装を役人たちに奨励した、かの有名な「クール・ビズ」、「ウォーム・ビズ」キャンペーンを立ち上げ、大成功を収めた。これはひとえに冷暖房費用と温室効果ガス放出を抑制するためであった。「カルロス・ゴーン氏からは地球規模での環境問題を共に考えてほしいと要請されている。日本の省エネ技術の普及、推進にも一役買えると思う」と彼女は念を押す。

政治のために彼女はルノー社外取締役の地位を断念することがあるかもしれない。安倍晋三氏と小池氏は同じ政治信条を持っているのだ。二人ともアメリカ占領軍によって押し付けられた憲法の見直しを望んでいる。「現行憲法は世界で最も硬直的で、これを変えるのは至難の業。それに比べて、他国は必要に応じて改正が可能。また現行憲法は草案が英語で書かれたため翻訳調。私が欲しいのは美しい日本語で書かれた自主憲法。」と彼女の口調はまた熱が帯びてきた。

小池百合子氏は「新しい歴史教科書をつくる会」の支持者だが、この会は第二次世界大戦中の日本の戦争責任をなかったことにするような教科書を刊行している。しかし彼女は国際的スケールの女性政治家であり、その人となりは日本のグローバル化を推進すると宣言した安倍晋三氏の眼鏡にかなうものである。再度政府の要職に就くようなことになれば、彼女はルノー取締役会にある自分の椅子を諦めざるを得ないだろう。