シニア層と終身雇用

人生の最晩年まで仕事を続けようとする日本人は、必要を美徳へと変えた。


定年は一つの昇進?
日本の定年退職の歴史みると、それは驚くほど日本人の人生が延長されたことがわかる。1920年代、日本人の平均寿命は45歳であったにもかかわらず、当時の政府は定年を55歳に定めていた。今日、日本人の平均寿命は78歳になり、しかも75歳でまだ「健康体」と言える人が多い日本で、ほとんどの企業は定年を60歳に定めている。日本人は、非常に高齢になるまで現役でいることが多い。政府発表によると、65〜69歳の40%、70歳以上の13%が現役のままである。首相官邸の調べでは、定年退職者の40%が、「働く能力、スキルを維持できている限り」仕事を続けることを希望しているという。


仕事、それは健康
こうした仕事への情熱をどのように説明すべきだろうか。日本社会は確かに、仕事と、「役に立ちつつ老いる」という考え方に高い価値を与えている。日本人にとって、職業の遂行と健康との間にはきわめて密接な相関関係があるのだ。事実、日本には法的な定年は存在せず、企業に大きな決定の自由が与えられている。だが、このやり方は、必要から生まれたものにほかならない。日本人は、年功序列で昇進するキャリアを勤め上げたのち、55歳程度で最高の報酬を受け取るため、その時期の生活の流れを是が非でも維持したいと考える。だが、年金は65歳になるまでもらえず、しかもそれは月150,000円前後と生活していく上でぎりぎりであることを考えると、決して簡単な話ではない。

大学教員ジュリアン・マルティーヌ氏がその見事な研究報告書『日本におけるシニア雇用』において強調している通り、「働かざるもの食うべからず」は日本のことわざとして実に当を得ている。


国による支援も
出来るだけ長く仕事をするため、シニア層には「国」という強力な味方がついている。政府は60歳以上のサラリーマンを雇用し続けることに同意する企業を、その給与を水増しすることで支援している。企業にとって見れば、これらの経験値の高い社員は、次世代への優れた橋渡し役となる。経済的には、社員を安定雇用から不安定状態へと漸次的に移行させることによって、企業は得をする。55歳以上になると、馬車はカボチャに逆戻りするのだ。年功序列による昇進は、功績による昇進へと変わる。月給は 時給へと変わり、残業代はもらえなくなる。ボーナスもまた同じだ。この「摘み取り」の結果、日本人は60歳を過ぎると、最高額の報酬をもらっていたときに比べ、30パーセント低い給料をもらうことになる。65歳以降は、その大部分(社会学者ジョン・B・ウィリアムソンおよびヒゴ・マサの研究によると、半数以上)が独立して仕事を続けることを選ぶ。この政策の結果として、今日の日本における60歳以上人口は溢れかえっている。この社会層について明らかにしたのは、優れた人口統計学者である小川直宏の研究だ。今日、日本人は31歳になっても金銭援助を受けていますが、与える側の年齢はと言えば実に81歳まで伸びているのです。

「若者と、老人たちのためにお金を出しているのは、シニア層なんですよ」と、小川氏は笑いながら言う。日本のシニアは、「シルバー経済」から「ゴールド経済」へと、すでに移行したのだ。

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