チーズ業界の危機

輸入チーズに対する新たなリステリア規格基準から浮き彫りになる日EU間協定の必要性

拡大する市場
日本が西洋とアジアの架け橋として市場に貢献したものをひとつ挙げるとすれば、それは間違いなくチーズである。チーズの消費は1960年代、アメリカでの流行と冷蔵庫の普及により広まった。今日、フランスにとって日本は年間1万トンのチーズ輸出量を誇る3番目の輸出市場(欧州を除けば2番目)であり、消費者の関心の高さは随一である。好奇心が強く、熱狂的な日本人はまさに理想的なクライアントである。「2008年に来日して以来、市場は成長し続けています。当社の製品への関心が特に高いのは女性です。お金がなくても自分のためにチーズを買う若者を見れば、チーズの人気が嘘ではないことがわかります」と2015年「モンディアル・デュ・フロマージュ」の優勝者で、東京にある魅力的なチーズ専門店「フェルミエ(FERMIER)」の店長を務めるファビアン・デグレ氏は熱く語る。「エポワスは、日本で人気のチーズです。フランス人の味覚にさえ衝撃を与えるほど強烈な個性を持つこのチーズが、日本で持てはやされるようになるとは」と同氏は驚く。労働力不足のこの時世、調理せずに提供できるチーズにレストランからの注目も高まっている。多くのワインバーや居酒屋が、次々と開店し、アルコールとチーズの様々なコンビネーションが供されている。

死を招く検査
しかし日本の衛生当局は、滅菌するかのごとく確実に業界を潰そうとしている。昨年4月以降、衛生当局はチーズに関し、フランスでの検査に加え日本での年次検査を受けるよう輸入業者に要請している。「日本はEUが実施しているリステリア菌検査を認めていません。特定の時点でリステリア菌が検出されていない製品でも1ヶ月後の検査では陽性と判断されることもあるため、日本の衛生当局が実施している独自の検査は衛生面においてあまり意味がありません」とFromiグループのアジア営業ディレクター、レミ・ルデュロン氏は説明する。最も犠牲となるのは、売上高に対し輸出コストが嵩む小規模生産者である。「我々はフランスのバラエティに富んだチーズを供給しているので、非常に少ない量の製品を輸入することもあります。さらに、単価50ユーロで輸入する製品について、1つ当たり約300ユーロの検査費用がかかることもあります。業界のチーズの多様性に影響を及ぼすことは明らかです。Lactalis社などの大手グループは輸出規模でカバーすることができますが、小規模生産者はそうもいきません」と同氏は話す。

誰にとってもいいことはない
チーズの輸入業者によると、高い検査費用は資力の乏しい生産者を追い込み、2017年以降のチーズの末端価格に影響を与えるという。新たな輸入障壁は、最も立場が弱く献身的なフランスの職人たちだけでなく、チーズの恩恵を受けるすべての日本人(学校、輸入業者、レストランなど)、さらには日本のチーズ業者にまで不利益をもたらす。「日本のチーズ業者はこうした検査が市場全体を妨げていることに気付いている」とファビアン・ドゥグレ氏は述べる。日本にも高いレベルのチーズはある。しかし生産コストが高い上に生産性が低いため、販売価格が非常に高くなり、フランスの輸入チーズと比べて競争力がない。「長野で製造されたチーズの価格は、輸入費用込みのフランスのチーズの価格よりも高い」とフランスの輸入業者は言う。しかし、輸入業者に非関税障壁が課される限り、業界のさらなる成長は見込めない。
一方、韓国では人々がフランスのチーズに飽くなき食欲を見せている。韓国の2014年のチーズ輸入量は4千トン、2009年の実に20倍以上である。韓国が2011年にEUとの間で自由貿易協定を締結したことは確かだ。日本とも協定が結ばれる日が待ち遠しい。

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