トップへの願望

今のところ、数字は日本の「後退」を打ち消している

首位争い
これは我々在日フランス商工会議所が言っているのではない。世界経済フォーラム(WEF)のランキングによると、日本は世界で4番目に革新的な国である。WEFは競争力ランキングにおいても、日本をドイツと並ぶ6位に位置付けている(フランスは23位)。日本はとりわけ、研究開発費(世界2位)、特許登録件数(同2位)、科学者及び技術者の質(同3位)の分野で秀でている。また、国内総生産(GDP)比の研究開発費は、イスラエル、韓国に続いて3位にランクインし、GDPの3.49%を充てている(フランスは2.23%)。日本はもう新しいモノを開発できない、と人々は言う。日本のiモードの開発者は、iTunesの脇に追いやられた。がしかし、そのモデルはまったく同一だ。ソニーはその構想において、iPadと同種の試作品を開発していた。世界経済の大部分を次々と変容させるUBERやAirBNBのようなアプリケーションが、日本では生まれなかった。日本でのイノベーションは、「生産プロセスに残る」と言ったほうがより的確だろう。それによって、韓国や中国といったライバル国の激しい攻撃にもかかわらず、日本の製造企業が持つ耐久力を説明することができる。WEFの同調査で、日本は「ビジネスの洗練度」、つまり仕入先や企業、クライアント間の連携において世界1位にランキングしている。良好な関係のネットワークが、「企業をより効率的にし、生産チェーンや商品開発におけるイノベーションを促し、新規参入者への障壁を低くしている」。

黒字
日本を、諸外国に比べ「革新的な国」として位置付けているもう一つの方法に、技術貿易収支がある。つまり、「知的財産」(商標、特許、音楽・映画・文学の創作品)の活用による海外への支出と関連して、得られる収入に強い関心を持って取り組んでいるのだ。ここでもまた赤字が見られない。2014年、日本は209億ドルを知的財産権保有者に支払い、368億ドルを得た(一方、フランスは102億ドルの支払いに対し、得たのは119億ドル)。「日本は、精密機器、化学、造形美術の3分野で世界のリーダー的存在です」と、三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)のエコノミストは、顧客レポートの中で分析している。イノベーションは科学分野に限られたものではない。統計には表れないが、モード、ガストロノミー(食文化)、及びあらゆる「ソフトマター」におけるイノベーションが、世界中のプロの間で注目を集めている。イノベーションはまた心意気の問題でもあるのだ。

すべての人のためのイノベーション
「日本には、一般向けの科学研究に対する真の好奇心と情熱がありますが、フランスには見られません。以前、世界一性能の良いコンピューターを作るための、日本の取り組みに関する記事を読んだことがありますが、フランスにはこの種の議論も見られません。」フランソワ・フィヨン元首相は、先の来日の際そう語ったことがある。日本の多くの大企業は、金融やマーケティングの専門家よりも、技術者の人材を常に求めている。



生き残るためのイノベーション


東京大学教授でイノベーション問題の専門家、マシュー・ブラマー氏は、日本は脅威にさらされていると思いながら先頭に立ち続けていると考える。

日本は今でもイノベーションのリーダー的存在でしょうか?
最初のご質問のイノベーションの定義から始めましょう。イノベーションとは何でしょうか?モードや料理のような分野について話すとき、イノベーションとは数量化し得るものではありません。それぞれの国のイノベーションは、次の3つの方法で測ることができます。まずは、特許の登録件数を数えること。その際、特許に引用される特許数を、国ごとに考慮します。ご存知の通り特許の申請には、研究結果を記載しなければなりません。こうして新旧の特許がそれぞれ比較されることによって、特許が持つ重要性を、また、国々が比較されることによって、その国の進歩に関する重要性を測ることができるのです。次の方法は、国ごとに出版されている科学記事の数を算出することです。第3に、国の輸出全体に対する、ハイテクノロジー製品の輸出の割合を計算する方法です。どのような方法を使うにせよ、アメリカが明らかに抜きん出ており、ドイツと日本が後に続きます。もちろん、産業による違いはありますが、たいてい日本は首位3位までにランクインされます。

日本に固有の課題はありますか?
日本の課題は、製造業中心の経済からサービスの経済へ、高度な技術を保ちながら変容していけるかということです。工場がいやおうなしに途上国へ移る世界状況の中、日本は生き残れるのでしょうか。すでに、他の新興国に比べて、日本で生産するアドバンテージは失われています。サービス産業は、英語の使用を始めとする、日本になじみのない特徴の上に築かれたものです。また、技術進歩の土台は何かということも自問しなければなりません。私たち欧米では常に、科学を民主主義や、思考の自由、教育、地方分権といったものと結びつけてきました。日本は、韓国や、シンガポール、中国も同様ですが、これらの価値に基づいた発展をしてきませんでした。フランスのよう世紀もの間、テクノロジーを支配してきた国が、なぜ50年のうちに日本に抜かされたのでしょうか。

日本のイノベーションへのたゆまぬ取り組みはどう説明できますか?
日本が置かれている状況の不安定さによって説明できるでしょう。不安定さには、内部と外部の2つのタイプがあります。内部の不安定さは、妥協とイノベーションの抑制を余儀なくします。分析は簡単です。政府はトラブルメーカーの要求を考慮にいれて反応するからです。例えばフランスで、タクシーの運転手がUBERに反対して抗議行動を行う場合、彼らの争点が考慮に入れられ、UBERは野心を低下させられるでしょう。イノベーションとは、定義上は「創造的な破壊」なのです。古いものから新しいものに取り換え、その時のエリートや主要な人物たちを立ち退かせることです。そのためエリートはしばしば、イノベーションによって脅威を与えられている人々と共に、国のイノベーションに反対することにもあります。すべての人々がイノベーションを望んでいると考えるのは間違っています。
日本は国内の不安手さは抱えていませんが、外部の不安定さはますます大きくなっており、さまざまな影響をもたらしています。日本が、そのリーダーシップに関して、明らかに先進新興国の脅威を感じていたとしても、その規模を正確に算定することはできていません。中国の技術力がどのレベルにあるのかがわからず、アメリカが有事の際に助けてくれるかどうかが問題になっています。中国に対する懸念は増す一方です。この脅威が、国内で戦略的な反撃をもたらし、イノベーションへとつながっているのです。つまり、イノベーションの減少は、平和の結果なのだと思います。フランスや他のヨーロッパ諸国は革新的な国から後退していますが、それはもはや直面している脅威が外部ではなく、内部のものだからです。日本や台湾は、外部からの脅威にさらされていると思っているため、イノベーションが続くでしょう。

どういった例が挙げられますか?
日本と中国の間の、レアアースの問題を記憶に新しいと思います。2010年、中国は自国の産業を有利にするため、徹底してレアアースの輸出を減らしました。これらの原料は、日本の製造業の主食のようなものでした。日本は即座に長期的観点で対応策を考え、ロシアやベトナム、ブラジルに接近し、中国への原料の依存度を技術的に減らしたのです。

その状況は日本固有のものですか?
いいえ。韓国や台湾の状況も非常に近いものがあります。これら3か国は、危機的な状況にあると考えていますが、今のところアメリカの保護を享受しています。

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