フランス料理、受難の時代?

若手シェフの台頭
フランス料理は落ち目? 堅苦しい? 値が張りすぎる? あなたが料理人コンペティションRED U-35(Ryorinin's Emerging Dream U-35)の最終選考に立ち会っていたら、そんな先入観はたちまち消えさるだろう。ぐるなび主催、35歳未満の料理人を対象とするこのコンクールが開催されたのは去る11月初旬。451名の応募者の中から、厳正な審査を突破した6名が最終審査に臨んだ。審査員の1人、落合務シェフは「最終審査に進んだ6人のうち3人がフランス料理のシェフでした! 和食の料理人にももっと頑張って欲しいですね...」と嘆く。そして栄えあるグランプリに輝いたのは、豊かな経験を活かした34歳の杉本敬三氏だった。「8歳の頃には家族経営のレストランで料理の勉強を始めていました。」杉本シェフはフランスで12年を過ごしたが、「市場を身近に感じられるように」と地方都市に滞在することを選択した。シュノンソーやリモージュなどを経て、アルザスのブドウ畑に囲まれた「ローベルジュ・デュ・シュナンブール=リクヴィール」では先輩フランソワ・ケイナー氏のサポートを受け、自身のスタイルを確立した。素材にとことんこだわるこの若きシェフは東京にレストランLa FinS(ラ・フィネス)をオープン、一晩に数人の客のみを迎え入れている。

ビストロの攻勢
フランス料理は長きにわたり日本で不動の人気を博してきたが、ここにきてシェフたちは人々のフランス料理離れを懸念し始めている。格式ばって堅苦しく、胃に重く、高価なフランス料理は、もはやこの民主主義の世にそぐわないのではないかというのだ。フランス料理は、欧州他国の料理(特にイタリア料理)やアジア料理を前に「煮詰められて縮こまり」、その地位を奪われてしまうかもしれない。だが実際には、日本のフランス料理は既に別の客層へとシフトしている。ミシュランガイドの調査員は2013年版ガイドのビブグルマン(よりリーズナブルなレストラン)で、イタリアンよりも多くのフレンチレストランを紹介。つまり「ビストロノミー」が、伝統的フランス料理の穴を埋めているのだ。あの安倍昭恵首相夫人もこうした流れに乗り、2012年10月、居酒屋タイプのレストラン「UZU」を東京・神田にオープン。「この店についてインタビューを受ける時、いつも彼女はUZUをあくまで『ビストロ』として紹介するようジャーナリストに念押しします。そう書かないと怒られちゃいますよ」と、関係者は語る。果たして最もおいしいフランス料理をつくるのは、日本人なのか? 杉本敬三氏はフランス人に戒めの言葉を投げかける。「ある日フランスの三ツ星レストランで、フランス人シェフがマギーブイヨンを使用しているのを見ました。これはフランスにとって恥ずべきことです。安心してばかりはいられませんよ!」

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