「フレンチ・スピーカーズ・コーナー」

ロンドンのハイドパークには、1872年以来、演説家がどんな意見でも表明することのできる「スピーカーズ・コーナー」がある。日本にもこの度、そのレプリカが登場したのだが、こちらは実にフランス的なものだ。それは、2015年9月に開催された現代アートの神戸ビエンナーレに、フランス系米国人アーティストのブノワ・モーブレーが出展した、重さ2トン、高さ4メートルにおよぶ「神道」の門「鳥居(シュライン)」である。リサイクルされた200個の中古スピーカーの集合体であるこの作品、マイクを使えば、誰でもこの巨大アンプを通して、メッセージを発信したり、音楽を演奏したりできるというもの。この「200の口をもつ女神」は8つのチャンネルを備え、8人が同時に発信できる。アマチュア演説家は、「ブルートゥース」を使ってワイヤレスで《シュライン》に接続することだってできる。「フェスティバルの後は、私の作品は、もし誰も必要としないのなら、リサイクルゴミ置き場へと戻されることになるでしょう。私はそこから取ってきたのですから」。モーブレー氏は、潔くビエンナーレが終わると同時にこう語っていた。作品は結局、徳島市そばの神山市(日本南部)の「アーティスト・イン・レジデンス」協会(KAIR)により引き取られた。 「電気音響彫刻家」としてよく紹介されるモーブレー氏は、自身の作品「鳥居」について、「祈りが聞き届けられる可能性のある場なんです」と語る。日本でも、つねに民主主義の祈りに耳が傾けられるよう期待したいものである。

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