ブラック・リスト

ブラックリスト:2015年11月、アンスティチュ・フランセ関西(京都)で開催された第8回「読書の秋」フェスティバルのテーマは推理小説。イベントにはガリマール社のセリ・ノワール(暗黒叢書)編集長オーレリアン・マッソン氏、そして作家のピエール・ルメートル氏が参加した。

ピエール・ルメートル
「日本で成功を収めたい、とかねがね思っていました」

「書くべきことは常にありましたが、私は書かない作家でした。執筆に向かない生活を送っていましたからね。暮らしを変えたのは2000年のことで、この年に私は離婚・再婚を経て娘を授かり、書く生活を始めたのです」とピエール・ルメートル氏は語る。2006年から2012年にかけて出版された推理小説5作品と2013年のゴンクール賞に輝いたピカレスク小説『Au revoir là-haut (天国でまた会おう)』の成功により、同氏はフランスのみならず日本でも瞬く間に名声を獲得した。2014年に日本で出版されたスリラー小説『Alex(その女アレックス)』は現在16刷を数え、60万部を超える売り上げを達成している。「これほど多くの読者に自分が受け入れられるとは想像していませんでした。自分の作品をぜひ読んでもらいたいと思っていた国は日本でした。でもどうしてこんなに読まれているのか、自分でもよくわかりません」と同氏。『Alex』の成功を受け、2015年には他の推理小説4作品と『Au revoir là-haut 』が相次いで出版された。これらの作品が『Alex』同様の成功を得るかどうか、今後の売れ行きが注目される。

日本を舞台にしたスリラー小説?
さて、旅行嫌いを公言するピエール・ルメートル氏だが、今回初めて足を踏み入れた日本という国については本能的に相通じるものを感じているのだろうか?「日本は私が想像していた通りの国でした。とにかく奥が深く、常に慎重を期して行動しなければならないと感じています。やっていいことといけないこと、言っていいことといけないこと……万事注意が必要ですが、こういうところが実に面白いと思うのです」。次回作『Trois jours et une vie』の校正作業を終えた同氏は、日本を舞台にしたスリラー小説の構想を温めている。「既にアイデアはあり、あれこれ想像を巡らしているところです。日本とのおつきあいはまだまだしばらく続きそうですね」日本へようこそ!


オーレリアン・マッソン
「書き手とは、すなわち個性」

創刊以来「セリ・ノワール」には2880冊もの小説がラインナップされてきましたが、日本人作家の作品はひとつもありません。その理由は?
意図的に外しているわけではありませんよ。1960年代のフランス出版社には日本の小説を読んでいる編集者がほとんどいなかったのだと思います。その後日本文学専門の出版社が設立されるようになりましたが、つまりは出会いや機会に恵まれなかった、ということですね。

ではどのような作品を出版したいと思われますか?
日本の作品を手掛けるのであれば、例えば触手やミュータント、モンスターなんかが出てくる猥雑なものをやってみたいですね。東京で編集者と会うことになっていますが、まずはその方向から手をつけていくつもりです。

日本文学についてはどう思われますか?
三島由紀夫や大江健三郎の作品は大好きです。三島については、本を読むより先に彼の行為(自殺)に興味を惹かれました。「こりゃとんでもない話だ、日本人ってのは本当に思い切ったことをする。三島は誰にも理解されなかったけれど、私にはわかる」なんて思ったものです。子供の頃には『AKIRA』や『攻殻機動隊』などの作品に描かれる核戦争後の世界の美学にすっかりハマりました。あとヤクザ映画もね。

セリ・ノワールは大判になりました。
21世紀のノワール小説は、例えば1945年頃に出版されていたものとは全く別物です。セリ・ノワールを一般的な文学と同列に置くべし、というのが私の考えです。現在、ノワール小説の作者はブランシュ・コレクションの作家と同じつくりの本を出し、同じ契約を締結し、同じ権利を手にしています。私が今のポストに就いた頃、セリ・ノワールはまだ文庫サイズで年間49ものタイトルが発表されていました。今ではこれが多くても15タイトルとなりましたが、今後もこのくらいのペースを維持していきたいと思っています。

フランスの推理小説は日本の推理小説に何らかの影響を及ぼすでしょうか?
私の考えではそもそもフランス独自の推理小説という括りは存在しませんので、日本の推理小説に何らかの影響を及ぼしたり、逆に影響を受けたりすることはないと思います。書き手とはすなわち個性であり、創造は偶発的なものです。面白そうな日本人作家と酒の席で偶然知り合うことになれば、彼と一緒に仕事をすることもあるかもしれません。

編集者としてのあなたの役割とは?
まずは書かせることですね。セリ・ノワールの作品には、パンクロックのCD同様、読者に「これなら自分にもできるかもしれない」と思わせる、そんな効果があります。勘違いかもしれませんが、こうした感覚が人を創作に向かわせるのです。私は書かれた作品に「魔法の杖」を一振りし、これを出版して売り出すわけです。売り上げが落ちれば、この杖は私の手から取り上げられてしまうでしょう。私としては、できるだけ長くこの魔法の杖を振り続けたいと思っていますが。

このページをシェアする Share on FacebookShare on TwitterShare on Linkedin