ラグビー、1億2300万人位市場

ラグビー、1億2300万人市場

未だこれをビジネスチャンスとして捉える企業は少ないが、ラグビーが日本にもたらした歴史的快挙の持つ意味は大きい。

驚天動地
2つの国際大会で日本は世界のラグビー界を震撼させた。昨年9月に開催された2015年ワールドカップでは初戦で強豪南アフリカとラグビー史上に残る熱戦を繰り広げ、ついにこの「スプリングボクス(南アメリカ代用チームのニックネーム)」に土をつけた。続いてリオ五輪の7人制ラグビーではフランスとケニアを撃破、そして何と言ってもニュージーランドの誇るあの「オールブラックス」を相手に勝利を収めたのである。「神様を倒したようなものですよ。南アフリカに勝った時は今一つその重みを測りかねるようなところもありましたが、さすがにオールブラックスの名は日本人も耳にしたことがあるでしょう」と述べるのは、ラグビーをこよなく愛するフランス人企業家ロベール・ヴェルディエ氏。この2度の快挙は単なる番狂わせではない。「今回の勝利は科学的分析とデータ収集に基づく体系的な準備作業の賜物です。こうした方法を取り入れることで試合への臨み方に大きな変革がもたらされました。日本のラグビー選手の特徴として、試合終盤でもバテずにしっかりプレーできる優れた身体能力が挙げられます。怪我人を出さずにワールドカップを終えたチームは日本だけでしたからね」とヴェルディエ氏は振り返る。日本チームは、世界で最も洗練されたチームの仲間入りを果たしたと言えるのではないだろうか。

待ちの姿勢
しかしビジネスの分野では依然消極的な姿勢が目立つ。数々のマーケティング調査結果から、ラグビーファンがほぼ50歳以上の男性に限られているとの実態が明らかになっている。つまりラグビーは、ごく狭いサークルの中だけで親しまれてきたマイナーなスポーツなのだ。南アフリカとニュージーランドに対する勝利は、こうした静かな世界に突然響いた2つの雷鳴のようなものだった。矢野経済研究所の調べによると、日本のスポーツ市場全体に占めるラグビーの割合はわずか0.2%(2000万ユーロ)。カンタベリーやエデン・パーク、セルジュ・ブランコなど世界的に有名なラグビー関連アパレルブランドも、日本ではマイナーな扱いを受けている。この流れに乗ろうと手を挙げた唯一のブランドが日本のフロントローだ。同社は競技場周辺の仮設売場や複数の店舗で試験的に関連商品の販売を開始している。
日本ラガーマンの快挙は、たちどころに金のなる木に変わるだろう。かつてアーセン・ヴェンゲル(仏人サッカー監督)は、サッカー日本代表チームが国際試合で勝つようになれば日本のサッカー熱も定着するだろうと予測していたが、今ラグビーでも同じことが起こりつつある。2015年ワールドカップで大活躍した五郎丸歩選手は、既に日本で最も「金になる」スポーツ選手の仲間入りをした。アサヒやシチズン、花王などのCMに起用された彼の月間広告収入は、ここ数ヵ月で5000ユーロから20万ユーロへと跳ね上がったという。
そして今から3年後には、いよいよ日本でラグビー・ワールドカップが開催される。関連用品の売り上げは今のところ微々たるものだが、こちらも爆発的な収益の増加が見込まれる。結果として、この市場は向こう数年間で現在の25倍ほどに膨れ上がる可能性がある。ワールドラグビーが発表した2015年ワールドカップ・イングランド大会の報告書に目を通せば、こうした予測もあながち夢物語ではないことが理解されるだろう。観客数は40万6000人、そして関連売上は3040億円――巨大産業の誕生はすぐそこだ。

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