「安定的に大きな売上をあげている牽引市場」 バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド・オリエント社

東京に拠点を置くバロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド・オリエント社のアジア統括責任者アントニー・グルメル氏にとって、日本は昔も今もワイン・スピリット類販売の重点市場である。

貴社の業務内容をご紹介いただけますか。
バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド社は、同一の経営方針と最高の品質へのこだわりに貫かれた2つの分野で事業を展開しています。「シャトー・ワイン」と「商標ワイン」というこれらの事業分野は、ファッション業界に例えるなら所謂「オートクチュール(高級仕立服)」と「プレタポルテ(既製服)」に相当するものです。オートクチュールにあたるのは、例えばシャトー・ムートン・ロートシルトやオーパス・ワン(後者はロバート・モンダヴィとの合弁会社)、あるいはアルマヴィーヴァ(コンチャ・イ・トロとの合弁会社)などの「シャトー・ワイン」。一方、世界で最も広く飲まれているボルドーワイン、ムートン・カデなどの「商標ワイン」は、プレタポルテに例えられるでしょう。

最も出来の良いワインは常に英国人が買い占め、日本を含む他国は後回しになっているという話も耳にしますが、これは本当ですか?
昔から英国人は当方の大口顧客で、現在もそれは変わりません。ですが最近では、日本を筆頭に他の多くの国が英国と同程度の購買量に達しています。グラン・クリュ・クラッセに関して言えば、その商品流通は主として「プラス・ド・ボルドー」と称する仲介業者・ネゴシアンの流通システムを通じて行われており、各商品の最終消費者を特定すること自体困難なのです。ですから英国人の仲介業者を優先的に遇することにさしたる意味があるとは思えません。

現在もなお、貴社はアジアの拠点をここ東京に構えておられます。アジア地域のベースとしてこの地を選択する企業は少なくなってきたように思うのですが。
弊社が東京にアジア地域の拠点をオープンしたのは1992年。以来現在に至るまで、日本とは深い関わりを維持し続けてきました。例えばシャトー・ムートン・ロートシルトのボトルを飾るラベルは毎年異なる芸術家によりデザインされていますが、ピカソやバルテュス、シャガールなどと並んで2名の日本人画家が1979年と1991年ミレジムのラベルデザインを担当しています。さらにこのワインのオリジナルラベル全てを紹介する展覧会が2度も開催されたのは、世界広しと言えども東京だけです。弊社にとって日本という国は、現在も安定的に大きな売上をあげている牽引市場なのです。ですからこの国では、例えば中国などと比べてより活発な事業展開を行っているわけです。

為替変動は貴社にとって悩みの種でしょうか?
最も大きな問題は、為替変動のスピードとレートの幅です。2012年末から2013年初にかけての6ヵ月間で、1ユーロは100円から130円に値上がりしました。良い面を挙げるとすれば、日本人がこの機に所謂「資産効果」を実感し、ワインの消費量が増えたことです。2013年は弊社にとっては非常に良い年でした。

来る4月1日から導入される5%から8%への消費税増税についてはどうお考えですか?
全くの未知数です。原則として、日本でワインの消費者価格を上げるというのは最後の手段なのです。業界関係者はワイン価格の値上げを望んでいません。ですが値上げをしない場合、消費税増税分に相当する中間マージンを流通網のどこで削るのかという問題が生じます。その答えはまだ出ていません。

世代が変わると、製品やサービスに対する志向も変化していきます。日本の若い世代に対し、ワインをどのようにアピールされますか?
日本市場の良い点は、従来のお客様から弊社製品に対する変わらぬご愛顧を頂けているということですが、新たなターゲットとして女性や若い世代の方々にもワインの魅力をPRしていきたいと考えています。弊社の掲げる戦略は、新機軸を打ち出して新たな価値を創造していくというものです。例えばムートン・カデは、女性や若年層に大変受けのいいカンヌ映画祭とゴルフのライダーカップのオフィシャルワインとなっています。

日本におけるワイン流通の変化にどう対応されておられますか?
ワインの消費には、ホテルやレストラン、カフェなどにおける消費を指す所謂「オン・トレード」と、自宅で飲むことを想定した「オフ・トレード」という2通りの形があります。日本では伝統的にオン・トレードが主流でしたが、2011年3月11日の大震災以降、オフ・トレードの割合が急増しています。購買形式としては、通信販売(インターネットやテレビショッピング)とコンビニエンスストアの占める割合が増えつつあります。コンビニがアルコール類の販売を開始したのはつい最近(2003年頃~)のことですが、現在では主要な販売チャネルに成長しています。コンビニでの販売に参入するにあたり、弊社では1年前に低価格商品を開発しました。スクリューキャップ式のハーフボトルで650円、売上は極めて順調です。

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