定義不能な「おもてなし」

日本式サービスが世界中の関心を集めている。シンプルこそパワーだ!

流行語
「今、日本中どこでも『オリンピック』とか『おもてなし』と言うだけで拍手が起こります」と竹沢えり子氏は笑う。銀座街づくり会議・銀座デザイン協議会事務局長を務める魅力的でエレガントな彼女は、2014年4月にショッピングのメッカである銀座で素晴らしく(かつ効果的な)日本式サービスのルールを教えるための「銀座おもてなし研修学舎」を起ち上げた。そこでは、ペン習字や筆ペン習字、基礎英会話、より美しい笑顔を持続させるためのフェイシャルヨガなどを学ぶことができる。竹沢氏は初めて日本に来るイスラム教徒を正しくお迎えする方法についても考えている。「おもてなしという言葉は最近、みんなに知られるようになりました。以前、わたしたち日本人は、言葉では言わずに、実際に行動で伝えていたことでしたが」と説明する。
「おもてなし」は今の時代が作った言葉のひとつだ。2020年オリンピック招致に立候補した東京が行った決選投票プレゼンテーションで、タレントの滝川クリステルが行った有名なスピーチ以来、あちこちで聞かれるようになった。そのスピーチがこれだ。「皆様を私どもでしかできないお迎え方をいたします。それは日本語ではたった一言で表現できます。『お・も・て・な・し』。おもてなし、それは訪れる人を心から慈しみ、お迎えするという深い意味があります。先祖代々受け継がれてまいりました。以来、現代日本の先端文化にもしっかりと根付いているのです。そのおもてなしの心があるからこそ、日本人がこれほどまでに互いを思いやり、客人に心配りをするのです」。シャネルの日本法人社長リシャール・コラス氏は「おもてなしは、日本人が地球上で最後の文明人であることを表す日本式作法です」と冗談半分で言う。竹沢氏は「おもてなしとは、日本人が立派な仕事として評価する価値観のことです。時給800円で働いている人も、給料が少ないからといっていい加減に仕事をすることはないでしょう。その人は800円の価値を最大のものにしようと努力するはずです」とは説明する。

みんなの価値観
確かなことは、駅長から豪華なホテルの総支配人まで、すべての日本人が客に対する気配りを持ってることだ。客の要望を事前に気づき、接客を行うことで客の満足度は高くなる。今や"おもてなし"は観光の謳い文句となり、輸出の武器となった。かくして、ユニクロは日本国外での商品販売に際して、競争相手に差をつけることができた。世界中のユニクロのレジでは客の支払いのカードを両手で持って返却し、商品を袋にパックしてからお客様に提供する。ユニクロはまた、客が買い物をしてから3か月以内の商品交換に応じている。「新人の販売員に最初に教えることは、顧客に満足を与えるというです」とユニクロの広報担当者は言う。チョコレートブランドのゴディバにおいても、サービスがきわめて重要である。2122人の社員はサービスに関する123段階の講習を受ける。「私たちにとってサービスは差別化の鍵であり、お客様に最高の体験をしていただくための一部となっています」とゴディバジャパンのジェローム・シュシャン社長は語る。
サービスの質は、現代日本における最大の無形財産のひとつだろう。そのレベルは少し月並みなものになる傾向にあるといっても、それでも尚世界で最も高い水準である。「私たちはフランチャイズの時代に入っています。レストランチェーンや小売店はどの店舗も違いをなくし、接客を画一化しました。こんな状態ではサービスに温かみを感じることはできません」とフランス人IT技術者で東京に長く住んでいるジャン・モンセ氏は指摘する。この変化は銀座でも感じ取れる。「30年前、銀座は小規模な商店や施設の街だったのです。それぞれのお店には贔屓のお客様がいて、その人となりに合ったサービスをしたものです。今ではお店の存続期間はずっと短くなっていて、やり方も独自性が薄れてきています」と竹沢えり子氏は指摘する。彼女は日本社会が硬直化していると考えている。「私が若い頃、採用面接に臨むときは、ただ上品でありさえすれば十分だったのです。他の入社希望者と全く同じような服を着ているなんてことはありませんでした。それが新卒者たちは、面接のために考えられた服装、いわゆるリクルートスーツを着るのが義務のようになっています。彼女たちは«面接マニュアル»を頭に叩き込み、採用担当者からの質問に答えられるように訓練しているのです!私はサービスを考えていく上で、こんな«ロボット»みたいなやり方は好きにはなれません...。多分、今の"おもてなし"の流行は私たち日本人にとって自分たちの文化が何であるのかを理解し、この言葉が持つ真の意味を再発見する好機なのかもしれません」と彼女は期待する。

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