将来有望な9つのセクター

1
スマートグリッド――節電と蓄電
電子チップから原子炉やそのタービンに至るまで、次世代送電網(スマートグリッド)に必要なあらゆるコンポーネント・機材の製造をほぼ一手に引き受けているのが、東芝や日立などの企業グループだ。スマートグリッドとは、コンピュータ技術を用いたリアルタイムの需給管理に基づく送電網を指す。その普及、またこれに伴う再生可能エネルギーの利用拡大を受け、各種センサーや電力モジュール、バッテリー、燃料電池、太陽光発電システム、マイクロ水力発電、その他この種のインフラに類する各種機材を製造する多くの日本企業にビジネスチャンスが到来している。


2
産業ロボット
未来の産業分野として注目されることの多い人型ロボット。だが実際のところこの分野における研究は亀の歩みに等しく、日本もその最先端を走っているとは言えない。一方産業用ロボットの分野においては、ファナックや安川電機を筆頭に数々の工業用ロボット専門メーカーが業界を牽引している。イノベーションの主軸は、他の追随を許さない作業の高速度、自己学習能力(センサーや認識・記憶ソフトウェアの利用)、そして他のロボットや人間とのチームワーク適性の3点。日本における産業用ロボット分野発展の背景には、国内需要の増加がある。日本の製造業界は、労働力人口減少を補うために移民を雇用するよりも、遠慮なく酷使できる機械の方がお好みのようだ。


3
センサーと送信技術
イメージセンサー(ソニーはその世界的スペシャリスト)から温度や心拍数、血圧などのセンサー、そして脳波センサーに至るまで、モノや機材にこの種のデバイスを埋め込むことにかけて日本人の右に出る者はいない。一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)によると、世界のセンサー市場に日本企業が占める割合は54%にも達するという。彼らの強みは、産業分野における様々な応用に向けカスタマイズしたモデルを創造できる能力と、その傑出した精度の高さである。ただしMEMS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電子機械システム)センサーの分野に関しては、米国の競合他社に一歩先んじられた格好だ。このシステムが組み込まれた身近な製品(スマートウォッチやスマートフォンなど)は増加の一途を辿っており、MEMSは急成長分野として注目されている。


4
細胞の分析と治療
「化学処理により未分化状態に戻した細胞」という触れ込みで話題をさらったSTAP細胞の騒動は記憶に新しいところだが、人工多能性幹細胞(iPS細胞)に関する山中伸弥教授(ノーベル賞受賞)の基礎研究から細胞分析装置の開発(ソニー、ニコンなど)に至るまで、日本の細胞関連分野の卓越性は外国の研究者も認めるところである。現在、日本ではiPS細胞を用いた世界初の臨床試験が行われており、武田薬品など複数の製薬会社が、高い将来性の見込まれるこの再生医療分野への投資を拡大している。


5
複合材料と他の先進素材
世界の炭素繊維市場の70%以上を握る東レと帝人、そして三菱ケミカルホールディングス。他社に先んじることがものを言うこの分野で、複合材料に関するこれら各社の先進性が脅かされる心配はなさそうだ。40年以上にわたる東レの研究は、今まさにその成果を実らせつつある。この間、多くの企業がこの分野から手を引いていった。しかしそこに眠る可能性は明らかで、まだまだ進歩の余地も残されている。建設・公共工事(道路舗装)、住居(パナソニック、三菱ケミカルなど)、衣料(こちらも同じく東レ)など専門分野で使用される各種材料に関しても、日本企業はあくまでトップランナーとして走り続ける心積もりのようだ。


6
車載電子装置
個人用パソコンの販売台数は頭打ち、携帯電話機の売り上げも大幅ダウン? そんな中、一部の日本のメーカーは車載電子装置に活路を見出そうとしている。モルガン・スタンレーMUFG証券によれば、2020年までに見込まれる市場の成長規模は現在の1850億ドルから2700億ドルにも達するとのこと。環境保護、安全性、快適性、使い勝手などに関する新たな要件は、未来の自動車に搭載される電子部品の重要性を一層高めている。これらの自動車にはセンサーや小型モーター、アクチュエーター、コネクターさらにはこれらを制御するソフトウェアが不可欠だ。こうした部品は、自動運転車にとって必須のアイテムともなっている。また車載電子装置市場は万人に開かれており、ここには自動車部品メーカー(デンソー)、電子部品メーカー(パイオニア、JVCケンウッド)など多様な分野からの参入も目立つ。世界の自動車部品メーカー上位100位のうち日本企業は29社を数え、うち7社は電子部品メーカーである。


7
5G
携帯メール、モバイルインターネットサービス(1999年)、そして3G(第3世代移動通信)サービス(2001年)を初めて提供したのNTTドコモ。2020年に向け、次なるターゲットは、5G分野のパイオニアになることだ。第5世代移動通信(5G)の技術標準はまだ固まっておらず、NTTドコモは標準化に向けた主導権を握ろうとしているわけだ。過去に自社技術の一部を国際規格化できず手痛い損失を被った同社が今回手を組むのは、自社の研究作業からはるか上流部に位置する部品メーカーで、しかもそこに名を連ねているのは日系企業だけではない。当初、NTTドコモと手を組んで移動通信インフラの容量拡大に必要な技術を開発するために選定された8社(アルカテル・ルーセント、ファーウェイ、富士通、NEC、エリクソン、サムスン電子、三菱電機、ノキア)からなるグループに、このほどインテル、クアルコム、パナソニック、キーサイト・テクノロジー、そしてローデ・シュワルツという新たな面子が加わった。


8
IoT (Internet of Things) - モノのインターネット
これはクラウド・コンピューティングやビッグデータに続き、最近声高に語られるようになったテーマである。これらのコンセプトは互いに関連し合っているが、一般大衆に身近なのはIoTだろう。「モノのインターネット」とは、ネットワークを介して通信し、その個体情報や周辺環境に関するデータを、人による操作なしで自動的にやりとりするあらゆるモノを指す。つまり人が操るパソコンやスマートフォン、タブレット、あるいはゲーム機などはIoTの範疇に入らない。一方、 IoTの典型例として挙げられるのが通信機能を搭載したブレスレットやチップを付けた荷物などで、同じく通信機能付電気メーター、遠隔操作によるトラッキング・問い合わせ可能なモノ、さらにはネットワーク上のデバイス経由で送信されたデータを受信できるモノなどもこれに含まれる。通信事業者だけではなく、情報処理産業(東芝、日立、富士通、NECなど)もこの分野に参入、また仏Sigfox社など新興企業の台頭も目立つ。


9
8K
2020年には8Kテレビの放送開始も待たれる。フルハイビジョンの16倍の解像度を誇る8Kは、スポーツイベントの記録にその威力を発揮する。NHKはサッカーワールドカップ・ブラジル大会でこの技術を試験的に導入した。8Kの映像フォーマット(市場にはまだ出回っていない)は3300万画素からなるイメージに相当し、このビデオ信号には合計24チャネルからなる音響システムが付随する。2020年の期限に遅れが生じることのないよう、総務省は、8Kの実用放送開始を2018年と2年前倒しする決定を下し、これに先立ち2016年には試験放送が開始される予定だ。ちなみに1964年の東京オリンピック開催時にも、カラーテレビと衛生中継というイノベーションが日の出を見ている。

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