指標

「研究者が研究に専念できくる環境を」

フランス国立科学研究センター(CNRS)国際共同ユニット(UMI)所長で、現在筑波のAIST ロボット工学連携研究体で国際客員研究員として働くアブデラマン・ケダー氏が、日仏行政当局の研究者への対応ぶりを比較する。

フランス、日本の役所にまつわるご自身の体験をお聞かせください。

私の立場におりますと、日仏両国の研究所がどのように機能しているかが見えてきます。私は大抵日本側に話を持っていくのですが、その理由は、何しろ簡単にすんなり事が運ぶからです。フランスでは、行政が研究畑の実情に疎くなって久しく、例えば、役所は研究者に事務方の仕事もやらせれば経費節減になると信じています。しかしそれは結局研究者の側で秘書の人件費を肩代わりせよということであり、まやかしの勘定という他ないのです! これだけではありません。例えば研究者の雇用という基本中の基本の部分にも差があります。才能ある研究者は世界の至る所にいますが、どの国であれ、彼らをうまく勧誘しなければ始まりません。日本はその点を十分に心得ており、この国で研究者として働くための有資格証明書さえあればよく、入国した研究者には空港ですぐに滞在許可証が交付され、その他の必要な手続きにしても市役所で1日もあれば済んでしまいます。警察も、研究機関に対しては一定の信頼を持って対応してくれます。私は査証の更新を3年間で申請していたのですが、手元に戻ってきたのを見たらなんと5年間有効になっていました! これに引き換えフランスでは、日本人などの外国人研究者を欧州枠の予算で採用したいと考えても、学生自らがフランスまで出向いて住居を見つけなければ応募要項は満たされません。実に馬鹿げた話です。日本の行政機関では、申請受理にどれくらいの時間がかかるか、回答が何月何日に出るかを正確に教えてくれますが、フランスの行政ではそうはいきません。欧州プロジェクトでは、各月末から5日以内に勤務表に記入し、内容を確認した上で署名をするよう求められていますが、近くこれが一日単位、時間単位になるというのですよ! このやっかいな勤務表は、私たちの仕事の進め方と全く相容れないものです。研究者は時間単位で働くものではありません。もし事実通りに勤務時間を報告していたら、行政官には全くそぐわない勤務実態になるでしょう。私が出張で日本を訪れる時、要求されるのはパスポートだけです。フランスではあれやこれやの書類に記入し、領収書を全て保管して…… 私たちは研究者ですよ、しかも天下のCNRS、国立の研究機関です! 私たちの本分は研究なのです。これは本当に考え方ひとつなのだと私は思います。フランスの行政、あれは過去の遺物です。

他にも似たようなケースがありましたか?

私は以前、極めて優秀なある外国人研究者をCNRS に受け入れたいと考えていました。(彼は現在日本にいます。)フランスで選抜試験を受けるために領事館から査証を発行してもらわねばならなかったのですが、領事館は彼の書類審査に1ヶ月かかると回答しました。ところが彼が受験票を受け取った時には、試験実施日まで既に1ヶ月を切っていました。彼はシェンゲン協定の利用を思いつき、ドイツ大使館に赴きました。そこでドイツの査証を得るために要した期間は、たったの「3日間」だったそうです。

こうして本来は研究のために費やされるべき時間が、役所での手続きに奪われることになるのです。私たちはただ、より良い仕事をしたいと望んでいるだけなのに。カトリーヌ ・ブレシニャックがCNRS の総裁を務めていた頃、彼女は行政手続きについて私にこんなことを言いました。「来る日も来る日も、夜が明けると、ハンマードリル片手に風穴を開けに行くわけ。ドリルはちゃんと作動してるのよ、でも絶対に穴は開かないの。あれは一体、何でできてるのかしら?」

正式に苦情を申し立てたりはしないのですか?

文句は言っていますよ、でも政治家の耳に届いているという実感はありません。研究者なら誰だって文句を言いますよ。ル・モンド紙上では、科学アカデミー・技術アカデミーの各委員会や大学関係機関を集めて討論が行われたことがありますし(委員会報告書もあります)、この他にも私の知らないところで、とりわけ欧州レベルでの取り組みがたくさん行われているはずなのですが…… 何一つ変わりません。日本には公共サービスに対する信頼感がありますし、行政上の手続きも建設的で、こちらの意見をちゃんと聞いてくれます。でもフランスではそうはいかない。フランスでサービスと言えば、公共ではなくて社会保障。本当に万人のための「公共」だったら研究者の声だって聞いてくれてもいいはずです。

フランス式のやり方の中に、今後も残すべきものはありますか?

いつかある日本人が私にこんな風に尋ねました。「あなたのような外国人研究者を生涯にわたってつなぎとめておくためには、日本として何をすべきでしょう?」これに対し私は、たとえ給料が倍になっても自分のキャリアをここ日本で完結させようとは思わない、と答えました。私は生粋のフランス人ではありませんが、かの地で研究所の所長になれます。もし私に十分な能力さえあれば、いつの日かCNRSの総裁に就任することさえできるでしょう。でも私は間違いなく日本のAIST (産業技術総合研究所)の理事長にはなれません。日本では、日本人であっても両親のどちらかが外国人であれば研究機関の長にはなれないし、大きな責任を担うポストを望むことも難しいのです。また日本人であっても外国で暮らしていた場合、就くことのできる役職は限られています。これは人種差別ではなく、保守的だということですね。総じて日本は外から人を迎え入れることには積極的ですが、彼らをつなぎとめることには長けていません。フランスはこれと全く逆だと言えます。


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「フランスにおける店舗経営は、日本よりずっと難しい」
真田秀信氏は、ユニクロを担うコアメンバーの一人。同社がまだ山口県の一洋品店に過ぎなかった時代に入社した。同氏の職業人としての道のりは、ユニクロブランドの驚異的な成長の軌跡と重なる。「副店長、店長、ブロックリーダー、英国事業部長、それから米国に渡り、4年前からはフランスCOO(最高執行責任者)」と、彼はこれまで歴任した役職を数え上げる。 ユニクロの驚くべき歩みと、フランス市場の動向について聞いた。

2001年、ユニクロは世界進出を開始します。その第一歩として選ばれたのは英国でしたが、その結果は惨憺たるものでした。

何しろ数多くのミスを犯しましたからね。スタートは順風満帆だったのです。ロンドン出店時のインパクトはとても強く、タイムズ紙の紙面には「これからの10年はユニクロ」などという見出しが躍りました。ところが英国展開に携わったチームの中には世界規模での事業経験者が一人もおらず、在庫が払底したり、情報処理関係の問題が頻発したり…… それに加えて、社内での意思疎通がまるで取れていなかったのです。それから私たちは本物のプロと呼べる人材を新たに採用し直し、店舗数を21から5箇所に縮小しました。現在は11店舗の展開ですが、いずれはまた21店舗まで戻したいと思っています。ちなみに中国でも事情は同じようなものでした、とにかくミスばかりで。「安かろう悪かろう」を地で行っていたのです。状況判断の誤りを修正するのに3年かかりました。柳井正(ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長)はこう言いました。「判断を誤ったおかげでずいぶん高くついたけど、この経験を次に活かそう」

フランスでのユニクロの展開はとてもゆっくりしているように見えます。知名度の割に、まだ3店舗しかありません。

おっしゃる通りのんびりしていますが、将来的には店舗の数を大幅に増やすことができると思っています。例えばパリ・オペラ店は世界各国に展開する数多くのユニクロ店舗の中で最も収益性の高い店の1つで、顧客の満足度調査にも好意的な意見が多数寄せられています。店舗の開設にあたってはユニクロブランドのあり方を十全に理解した能力ある店長を採用しなければならず、ここを誤ると顧客を失いかねません。これら店長候補はまず日本で研修を受け、開店や商品納入のシミュレーション等を体験してもらうことになります。

外国での展開にあたっての戦略は?

地方都市から始まって都市近郊、そして最後に大都市中心部へと発展してきた日本国内での展開戦略とは逆に、外国ではまず都市中心部、それから徐々に地方へと進出していくことになります。

海外進出する日本企業が頭を抱える問題のひとつに人材の採用があります。貴社の状況は?

ユニクロの強みは、学歴や国籍などによる差別は一切なく、実績が全てということです。今日弊社には数多くの外国人従業員が勤務しています。

フランスで店舗経営するのは他と比べて難しいとお考えですか?


これはもう本当に難しいですね。グループ企業のコントワー・デ・コ

トニエとプリンセスタム・タムからは多大な支援を得ました。実際、

フランスでは日本よりも労働に対する法的な規制が強く、例えば

祝祭日の給与は、平日のそれと比べてかなり高くなっています。

ユニクロはこのように大きな成功を収めていますが、多くの日本企業が苦戦しているのはなぜでしょう?


これは日本全体に共通する問題でしょう。戦後の日本に活気を与えていた「国境を超える」という精神が、今の日本人には失われているのではないでしょうか。


世界の人気者、日本

フランスを訪れる旅行者の数は訪日観光客数の10倍にも上るが、それでも世界の人々はフランスより日本の方に好感を持っているらしい。BBC放送が26,000人を対象に実施した国の好感度に関する最新アンケート結果によると、日本は5位のフランスより上位の第4位にランクイン。回答者のうち51% が、日本は世界に良い影響を与えていると答えている。ただし、2012年に世界で最も好感度の高い国に選ばれた日本にとって、今回の結果は後退を意味している。日本は南米やインドネシアで変わらぬ高い人気を保っており、英国やフランスでも好意的な意見が多い(56%がポジティブと回答)。そしてこれは予想通りの結果ではあるが、中国と韓国におけるイメージは非常に悪い。

一方フランスについては、回答者のうち49%が世界に良い影響をもたらしていると答えている。 フランスに対する好感度が高いのは北米、次いで南米である。ただし、フランスの対外的な影響がポジティブだと回答した日本人はわずか33%に過ぎず、この数値は中国人による回答(51%)を大きく下回っている。まだやるべきことは残っているようだ。

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