教育: 早期教育のすすめ

日本とフランスは、自国の幼児教育の現状に頭を悩ませている。フランス・パリの経済協力開発機構(OECD)教育訓練政策課アナリストの田熊美保氏が本誌取材でその理由に迫る。

先日、森まさこ少子化対策担当相が幼児保育の視察のため訪仏しましたが、その際どのような話がありましたか?
森大臣は、国が主導でより良い幼児教育システムを整えることで、女性の雇用を促進することが可能だと考えています。そのため、同分野における最良の実践モデルを調査するためにOECDを来訪されました。

日本の幼児教育についてどうお考えですか?
日本には、二つの幼児教育システムがあります。一つは、厚生労働省管轄の「保育園」で、働く女性の子供を保育するための施設です。もう一つは、文部科学省が管轄する幼稚園です。フランス人が日本で子供を預けると実感しますが、日本の保育施設は優れた水準にあり、特に3歳から6歳までは非常に高いレベルにあります。教育者のレベルも高く、一部の大都市を除いて施設不足の問題もありません。
問題があるとすれば、0歳から3歳の子供の保育で見受けられ、それらは「量」にも「質」にも関連しています。「量」という意味では、この年齢層の保育施設はまだまだ足りません。しかもこの時期は、特に母親が働き盛りの時期にあたり、女性達が子供の教育ために自分のキャリアを諦めることは、本人にとっても、また今まで投資してきた会社にとっても、さらにマクロレベルでは国にとっても大きなマイナスです。一方で、さらに深刻なのが「質」の問題です。日本の幼児教育は、子供の潜在能力について世界で既に認められているレベルに、到底追いついていないのが現状です。多くの研究で、子供の認知機能と感情能力が早い時期から著しく発達することが明らかになっています。0歳から3歳の時期は、その後の教育にも成長にも非常に重要な時期であり、正しい教育方針を定める必要があります。
フランスの実情も、少し日本に似ています。フランスの幼稚園のシステムは、世界的に評価されており、3歳からは無料で教育を受けられます。しかし日本と同様にフランスでも、0歳から3歳までの教育の重要度が理解されていません。保育施設の数が少なく、特にパリで探すのは大変です。「質」の面においても、フランスでは保育士の資格取得の難易度が、幼稚園教諭よりもはるかに低いため、保育士の質は日本よりも下回っています。日本では少なくとも、保育士と幼稚園教諭の資格取得の難易度は同じです。この問題は、不平等の拡大にも大きく影響すると言われており、生後すぐに最良の教育を受けた子供は、後にその恩恵を受けるでしょう。

田熊氏が考える最良のシステムとは?
二つのモデルを紹介します。一つ目は、0歳から6歳までを一貫した教育期間として捉える北欧諸国のシステムです。北欧では、子供に視点をおいた教育方針を採用しており、早期から個々の適正を見極め、刺激するよう努めます。対照的に日本では、教師が生徒に対し「教える」のが教育です。二つ目は、ニュージーランドのモデルです。同じく教育の中心は子供ですが、国がカリキュラムを策定し、民間企業が独自の教育を提供しています。これは北欧諸国のシステムより自由かつオープンで、複数のアプローチを用いて教育問題に取り組む日本にマッチすると思います。

状況改善のため、政府が講じるべき策とは?
自宅で他家の子供の保育を行ういわゆる「保育ママ」の法的な枠組みを定めるべきでしょう。フランスでは、“la garde partagée”という名前でかなり発達していますが、日本には全くありません。しかし、このような「保育ママ」は訓練を受ける必要があり、子供の能力を引き出したり、コミュニケーションの仕方を教えるスキルを身につける必要があります。

現政府は、本腰を入れて政策を実行できますか?
日本の教育政策の見直しが私の仕事です。安倍政権の誕生からまもなく一年が経過しますが、現段階での評価は困難です。ただ確かなのは、もし政府が新たな成長源と税収増を求め、一般家庭の貧困化を回避したいならば、女性の雇用を促進するべきです。そのためには、生後間もない子供を保育する体制を何としても確立する必要があります。問題は、政府が膨大な公的借金を抱えており、政策実施の障害となっていることです。

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