文学: マンガ・グラフィティ

マンガ・グラフィティ2011年3月の大震災により、日本の大手出版社のひとつである小学館の本社ビルが新たな地震の際に危険性があるという判定を受け、取り壊しが直ちに決定された。1967年に東京の中心部に完成したこの建物の取り壊しは、2013年9月始めに始まった。取り壊し前の8月半ば、「日本マンガ界の伝説の地」に別れを告げるため、藤子不二雄(A)(『忍者ハットリくん』)や浦沢直樹(『MONSTER』、『20世紀少年』)といったクール・ジャパンの名を世界に轟かせた著名な漫画家たちおよそ20名が、ビルの内壁にそれぞれのマンガ・キャラクターを描いてみせた。これらの「ラクガキ」は、すぐに歩行者の目にとまり、1階の大きなガラス窓の前に人だかりができるようになった。老朽化したビルが、この年の夏休みの終わりに、東京の新たな観光名所となったのである。次いで、ほかの漫画家たちもこのオマージュに加わり、その数は100名ほどに達した。出版社は、貴重なラクガキで覆われた地下ホールとエントランスホールを2日間開放することにした。約8000人が訪れ、中にはそのためだけに地方からやってきた人たちもいた。 このお宝をどうするかについては、目下検討中である。

『はだしのゲン』が検閲される?
中沢啓治のこの作品は、フランスではヴェルティージュ・グラフィック社から出版されているが、日本ではその一部が検閲されてしまうという事態に発展している。1945年8月6日の原爆投下時に子供だった著者自身が体験した恐怖、そして家族を亡くした後の彼の生活をありのままに証言したこの作品は、1973年に日本で出版された。その後、舞台化やアニメ化もなされ、世界中で読まれる古典作品となった。「過激さの少ない」と言われる、表現の和らげられた修正版を小学生たちに提供するという目的で検閲を要請したのは、島根県松江市の教育委員会だ。この要請は直ちに大きな反響を呼び、子供たちへ歴史を伝える方法についての議論に新たな話題が加わることになった。安倍政権は日本の軍事上の立場を見直し、教育改革を推進する動きを見せており、おそらくこの閲覧騒動は他の多くの話題に波及していくだろう。反対派の代表者たちの中には、「これは改革という偽の名の下に待ち構えている修正主義だ」と主張する者もいる。
コリーヌ・カンタン

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夏目漱石の声に導かれて
オリヴィエ・ジャメ訳の夏目漱石『明治期日本をめぐる講演集』は、本文で紹介される6つの講演は夏目漱石が行った講演そのものではないと説明する序文から始まる。速記による記録をもとに、作家による加筆・修正が施された結果、量は二倍になり、構想も明瞭になった一方、この講演記録からは、夏目漱石の真の「声」を聴くことができる。それはまず、ユーモアあふれる脱線や滑稽な人物描写のある彼の小説の声に似た声である。講演中、彼は結論をわざと遅らせたり、一度始めた話の途中で新しい話を切り出したり、話を中断して聴衆に話しかけたり、あるいは今まさに話をしている自分自身について語ったりする。
比較的単純な考えでも、それが遠回しに表現されているが故、読者にはある程度の忍耐力が要求される。「道楽と職業」と題された講演では、職業の専門化が私たちの相互依存を引き起こし、そのせいで私たちは楽しみよりも義務によって働くことが多くなるということが、38頁にわたって説明されている。これは正直、それほどの紙面を割かなければならないような題材ではないだろう...
夏目漱石の小説を読んだことのある者なら、これらの講演に教師特有の学識や西洋の作家への傾倒を確認できるだろう。講演中、ドイツの哲学者やイギリスの劇作家、フランスの小説家など多くの人物がふんだんに登場する。
また同時に、漱石の教育者としての資質も発見できる。彼は、西洋の有名な人物たちの伝記を引用し、そうした人物たちの苦境を逸話として紹介することで、話に実例を盛り込んでいく。進んで自分自身のことを引き合いに出し(これらの講演を行ったのは、彼が40歳から47歳の頃)、彼の同時代人たちを引き裂く矛盾を例証する。それは、発展した社会というモデルに向けて歩を進めることが、古いしきたりを擁護する必要性を増大させてしまうという矛盾である。
この講演集の中で際立つもう一つの点は、(彼自身はやんわりと拒絶するだろうが)アンガージュマンの哲学者のように見えるということだ。漱石は、同時代人たちが新生日本としてスタートしたばかりの明治期における不透明な未来を創造し、生きていくための条件を定めている。そして、海外の技術や思考方法を日本に導入することで生じる衝撃を、滑稽な順応主義に陥ることなく、かといって無益に抵抗することもなく耐え忍ぶよう聴衆に勧める。このように哲学者風の漱石は、フランスですでに登場していた
「知識人」に似た特徴的な声を発している。もちろん、このような発言は彼の小説からはっきりと読み取れない部分である。
ブノワ・ロロー

夏目漱石『明治期日本をめぐる講演集』
(1907−1914)、エルマン社、32ユーロ

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