文学

漫画からも放射能?
30年にわたり読み継がれてきたグルメ漫画『美味しんぼ』。『ビッグコミックスピリッツ』誌に連載されているこの漫画は、料理ジャーナリスト山岡士郎とその妻栗田ゆう子が様々な難題に立ち向かう物語である。既に1億3千万部を売り上げ、漫画史上に残る人気漫画だ。
一見当たり障りのないテーマを扱っているように見えるが、『美味しんぼ』には社会問題に切り込むという硬派な側面もある。この春発表された連載では、登場人物が福島県を訪れる場面がある。一連のエピソードには、2011年3月11日の原発事故以来、無責任な対応を続ける東京電力や政府への批判的な言説が繰り広げられていた。登場人物は福島の住民に対し、できるだけ早く原発から離れるようにと説得する。この『福島の真実編』は原作者雁屋哲氏が2年間かけて福島に通い続けた後に書かれたものである。
現在日本政府は、非常に厳しい状況下であるが国内の原発再稼働に向け舵を切りつつある。福島の原発事故以来、県外に避難していた福島県民に対しては、自宅への帰還を呼びかけているところだ。政府はこの漫画について、国民に誤った風評を広め福島の住民を傷つけるものだと強く非難。政府としては、かかる現実の捉え方を見過ごすわけにはいかなかったのだろうが、安倍晋三首相は福島県訪問の際、「根拠のない風評に対しては、国として全力を挙げて対応する必要がある。(…)放射性物質に起因する直接的な健康被害の例は確認されていない」と述べた。
当初はこうした批判に耳を貸さなかった出版社も、結局5月半ばに無期限の休載を決定。最終話に登場する主人公のジャーナリストらはこう述べる――我々には福島について「真実を語る」義務がある、自分たちの意見を言わないことは「福島の人たちに嘘をつくことになる」と。『ビッグコミックスピリッツ』の続く号では10ページを割いて、識者や地元行政からの意見が掲載された。CY

日本に捧げる愛
ジョルジュ・ナエフ出版から発売された『Japon mon amour(仮訳:日本、わが愛)』は、フィリップ・ヴァレリー氏が日本に捧げる美しい贈り物だ。サン・ゴバン社での輝かしいキャリアの陰に隠れ、カメラマンとしての彼の才能が表に出ることはこれまでほとんどなかった。同氏はこの本で、彼が駐在した日本での日々を振り返る。彼の私生活や仕事を回顧する文章については、文学というよりむしろゴシップ好きの読者の判断に任せよう。だがその写真から溢れ出る撮影者の豊かな才能は誰の目にも明らかだ。フィリップ・ヴァレリー氏は被写体を選ばない。茶畑、ソニー製の旧式テレビ、路上の祭り、1本の煙草を回し飲みする2人の男達――レンズの先に何があっても、彼のカメラは妥協を許さぬ緻密さでこの国の貴い一瞬を捉える。富士山の写真は、毎年多くの写真家によって星の数ほど撮られているが、日の出と競走しているかのような登山者の列を上から見下ろすように撮影した彼の写真ほど詩的なものを他に知らない。そして恐らく最も素晴らしいのは、料理人の包丁や小料理屋のありきたりの提灯をモチーフにした抽象性の高い写真だ。ところで、彼が撮影する日本人は決してポーズをとらない。だが彼らはずっとその場所に、彼の構えるレンズの前にとどまり続けることを望んでいるように見える。
2003年、フィリップ・ヴァレリー氏は『Par les sentiers de la route de la soie, à pied jusqu’en Chine(シルクロード紀行 いくつもの夜を超えて‐絹の道に暮らす人々との出会いと別れ)』を出版した。この本は、徒歩で仏マルセイユからカシュガルに至る自身の大旅行を記したものだ。一方こちらの『Japon mon amour』は、旅人ではなく定住者としての本である。荷を下ろし、足を止めて眺め、理解し、そして表現する者の書物なのだ。ありふれた言い方に倣えば「見ればわかる」ように。この本が上梓されることをきっかけに、新たな使命が生み出されることを願いたい。この40年間というもの、日本の正しい姿を撮影した写真は世に出ていない――これは由々しき問題だ。フクシマにおいてさえも、その真実を捉えようという写真家は現れなかった。巷に溢れるニュース映像のおかげで、私たちの想像力は痩せ細ってしまっている。
この写真集に欠けているものがあるとすれば、それは日本の暗い側面だろう。こうした美しい思い出の陰に隠れた苦しみや貧困、そして過酷な生活… そもそも公平な愛なんて存在しないのかもしれないけれど。RA
『Japon mon amour(日本、わが愛)』、フィリップ・ヴァレリー著、ジョルジュ・ナエフ出版

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