文学

いつになったら、日本の作家たちのオリジナル版が読めるのか?
日本関連の書籍は、フランスの書店で目立つコーナーに置かれている。日本文学はかなり翻訳され、フランス人作家による日本についての著作も豊富だ。フランスで出版される見事なカラー漫画本の数々は、言うに及ばない。だがよく観察すると、社会学や哲学といった人文科学のほとんどの分野、また現代社会についての資料やエッセイなどにおいて、日本人著者の生の声が直接聞こえてはこない。日本人著者による、あるいは日本人著者についてのフランス語での大学出版は存在するものの、それらを一般読者へと橋渡しする本がない。「フランス人は、日本の思想の『オリジナル』に触れる術がないのです」と、在東京フランス著作権事務所のコリンヌ・カンタン氏は嘆く。現実にそうした計画を実現させるためには、並々ならぬ翻訳作業だけでなく、テーマごとの監修も必要となってくる。普及活動は可能なはずであるが、それには少なくとも数年間、フランスの国立図書センターや日本財団のような組織による支援が必要だ。カンタン氏は、日本の作家たちの思想構造が理解の妨げになるとは思っていない。「なぜフランス人はフランス語で訳された日本の作品を読まないのでしょうか?日本人はデリダを日本語訳でちゃんと読みますよ!」彼女がこう訴えるのもうなずける。もっとも、日本人著者のフランス語訳出版の試みも数少ないながら、比較的好意的に受容されてきた。たとえば、日本人作家、詩人、エッセイスト、アーティストらが福島原発事故について評した2012年刊の『地震列島』。「この本はフランスと日本の対話をより豊かなものにしてくれます。フランスに日本に関する純粋な「原材料」を提供しているからです。フランスのメディアは、日本の社会的問題を論じるため、この本をだいぶ活用しました。週刊『ル・モンド・ディプロマティック』は、この本の共著者の一人、池澤夏樹氏に記事を依頼しています。最初に同著の出版がなければ、こうした依頼は行われなかったでしょうね。」と同氏は説明する。日本の原資料に触れることができれば、たとえば、尖閣諸島をめぐる日中間の紛争に関する日本の立場も、よりよく理解されるだろう。「ですが、それは一つの例にすぎません。数多くのテーマが、より豊かに、より明確になり、より細かなニュアンスを与えられるでしょう。」創立90周年を記念して日仏会館が4月に開催した、翻訳に関する大シンポジウムでは、この問題が長きにわたって議論された。 「偶然ではない」偶然の奇
関口涼子の『偶然じゃない』は、2011年3月10日に書き付けられた4行のメモから始まる。「(仏人作家)エマニュエル・カレールの『私とは別の人生』の翻訳サンプルを仕上げる。結果にはかなり満足している。」彼女が挙げる書物は、2004年にスリランカを襲った津波を背景として交錯する3人の運命を描いたものだ。その24時間後、あたかもこだまのように、地震、津波、そして原発事故が、関口涼子とその国を襲う。2011年3月11日、この運命の日のメモは7ページにも及んだ。こうして、『偶然じゃない』の著者は、その冒頭からこの世界的な事件の私的記録者となり、事件を「私有化」する。つまり彼女は、それを個人的な出来事へと変えたのだ。彼女にとってフクシマは、単なる読者である私たちと異なり、(3月11日)14時46分に始まったのではなく、エマニュエル・カレールの本の発見とともに始まった。私たちは彼女の本を閉じることはできるが、彼女はその本を終わらせることはできない、なぜなら「終わりは存在しないから。」それは作家の特権でもある。184ページある同作品の結論はおそらく82ページ目、著者が「私たちは「二つの大災害の間」に生きている」と指摘するところだろう。
この凝縮された本のなかで関口涼子は、同書が用いる論理以外に従うことなく、「フクシマ」後の3ヶ月間を語る。フランスと日本という両岸の間に立ち、彼女はテニスのネットわきに座る審判のように、この事件の受け止め方の隔たりについて記述する。日常生活の些事は耐え難いものになってくる。フランスの電話会社のバカヤロー(他の言葉が見つからない)は、彼女が近親者からの知らせをひたすら待っている最中、その絶対おススメの「セット料金」がいかにお得かをしつこく説明してくる。「日本人は物静かだ」といった、性急な一般論や、「ホロコーストの最中、ヨーロッパを脱出しなかったユダヤ人と、日本に残る日本人」といった、思いつきでしかないような比較。日本の詩人石井辰彦と共に、ある公演を聴きにオペラ座を訪れた関口涼子は、この大災害の犠牲者に対して過ちを犯してはいないかと自問自答する。快楽は、時に罪悪にもなるからだ。だがこの悲劇的事件の恐ろしさとは裏腹に、関口涼子の上梓した本は、楽しげなものである。

関口涼子『偶然じゃない』P.O.L.出版社、184ページ。

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