文学

漫画の国のアンネ・フランク
郵便小包を開けてこの本を手にした時、最悪の予感がした。本のタイトルは、『Anne Frank au pays du manga, bd reportage au cœur du Japon(漫画の国のアンネ・フランク 日本からお届けするルポルタージュ漫画[仮訳])』。この中高生じみたタイトルは何だ! ユダヤ人大虐殺、原爆、第二次世界大戦における日本の責任など、デリケートな数々のテーマを取り扱う本であるのに、中身は誠実さに欠ける拙速な表現になっているのではと、読む前は不安になってしまう。一部にインタラクティブなコンテンツを含むこの漫画には一風変わった目新しさがあるが、本当にこれが必要だったのかどうか、それも最初は半信半疑だった。
だがこの作品は人々の共感を得ることに成功した。ともすれば重大な問題を招きかねない登場人物4人の純真さが、この本に力強さを与えているのだ。彼らは未知の国日本に赴き、次のような疑問に対する答えを探し求める。なぜ『アンネの日記』は日本で最も有名な外国書籍の1つとなったのか? 戦争について語る時、日本人がとても気詰まりに感じているように見えるのは何故か? ヒロシマとユダヤ人大虐殺を同列に並べることは可能か?
良質な物語の秘密は、そこにまずその著者自身を驚かせる力が秘められていることだろう。そう、これはまさにそんな物語である。日本国内を東西奔走する4人のジャーナリストに寄り添いながら、読者は彼らの驚きや議論を追体験することになる。我々1人1人が彼らの持つ偏見に与するが、後にはその誤りに気付いてこれを正していく。彼らが憤慨する出来事に私たち読者も同じく眉をひそめる、しかしその見方が誰しも経験するあの「勇み足」だったことに彼ら自身が気付くと、4人の感じる戸惑いを私たちも共有する。彼らは極左から極右まで、様々な政治的信条を持つ政治家たちと面会するが、そのインタビューが彼らの考えを変えるきっかけともなる。この本の意義について語るには、1942年に何千人ものユダヤ人の命を救った駐リトアニア領事、杉原千畝のサムライ精神溢れる言葉を引用すれば十分だろう――「窮鳥懐に入れば猟師もこれを撃たず」
この「4人組」の中で最も印象深い人物は、日仏語通訳者エルミニアン・オガワだろう。雇い主たるフランス人たちが投げかける質問を繰り返し通訳していくうちに、自らの考えを少しずつ前面に押し出すようになり、彼らの思い込みを一掃していく。この本は、少々気に障るその外見とは裏腹に、反対意見が排除された仲間内の議論で済まされることの多いテーマに人間的な奥行きを与えることに成功している。

『Anne Frank au pays du manga(漫画の国のアンネ・フランク[仮訳])』レ・ザレンヌ出版、アルテ

特定秘密保護法に反対する作家たち
言論・表現の自由の擁護を使命とする文筆家団体「日本ペンクラブ」は2013年12月6日、安倍内閣が同日に強行採決した特定秘密保護法に対する抗議声明を発表した。彼らはこの法律が民主主義に逆行するものであるとし、かつて日本を悲惨な状況に追い込んだ統治のあり方、その破滅的な過ちを省みるよう呼びかけている。反対意見を無視した今回の強行採決について、声明文に賛同する同クラブ会員は「国会はもはや国民の代表としての資格を失っている」とし、今回の採決を行った全ての議員が、日本社会に及ぼす影響の責任を負わなければならないと断じた。文筆家らは、この忌まわしい法律の施行に断固反対し、日本の言論・表現の自由を守りぬくとの決意を表明している。

2013年ベストセラー
日本の二大取次と称される日販とトーハンが、2013年の年間ベストセラーランキングを発表した。1位は予想通り、100万部以上を売り上げた村上春樹の最新小説『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋)。ある韓国の出版社が、その版権を約70万ユーロ(約1億円)で獲得したとされるが、この額は200万部近くを売り上げた前作『1Q84』の版権価格の記録を塗り替える。次に続く作品がが、近藤誠氏のエッセイ『医者に殺されない47の心得』(アスコム)。著者は1988年、乳がんの乳房温存療法に関する著書で一躍有名になった放射線治療医である。

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