新しさの価値に変化

米広告会社マッキャンエリクソンのリージョナルディレクター、デイブ・マッコーガン氏によれば、日本の若者の関心は、新しさだけに向けられているのではない。彼らが求めているのは本物、そして奇抜さだ。

日本の若者たちのブランドとの付き合い方は?
彼らは常に新しい情報を求めていますが、いつもそれを2度、3度と様々な方法でチェックします。よってブランドには、彼等が消費するにあたり一貫性が求められます。また周囲の雑音に紛れないよう、可能な限りシンプルでなければなりません。長期間にわたって同一のメッセージを発信し続けるのは実に難しいことです。7年毎に新しい消費者世代が出現すると言われますが、つまりその度に彼らを再教育しなければならないわけです。日本の若者にコカ・コーラを知っているかと聞くと、全員がはいと答えるでしょう。しかしそのブランドが何を表わすかと聞いた場合、はっきり答えられないのではないでしょうか。こうした7年サイクルの存在を最も早く認識していたのが米国のウォルト・ディズニー、そして……日本のサンリオです。日本でブランドを展開する際の問題は、国内市場の商品の種類が膨大で、しかも極めて短いスパンで新商品が続々登場するという点です。日本の人口は米国の半分ですが、商品の種類は逆に2倍にも達します。日本のコンビニエンスストアでは、平均1.2日毎に新しい飲み物が登場すると言われています!このような状況では、単に「新しい」だけが売りのブランドでは不十分で、そこには何らかのストーリーが求められます。ヱビス・ビールやコカ・コーラ、ソフトバンクなどが実践しているのはまさにそれなのです。

現代の日本の若者に人気がなくなった商品とは?
私が若い頃、同世代の人々にとって自動車は言わば自由の象徴でした。しかし今の時代、車に振り回されていると感じている人も多いのではないでしょうか。特に公共交通機関が発達した日本のような国では尚更で、車を持てば駐車場も確保しなければならないし、定期的に車検も受けなければならないし……となるわけです。一方で、自動車購入に充てられなかったお金はファッションや旅行など別のところで消費されます。一般的に、若い世代の消費者は購入よりもレンタル志向になってきています。「自分のものにしたい」のではなく「そうなりたい」のです。例えば、この国ではずいぶん簡単に車をレンタルできるようになってきました。さらに車だけではなく、ハンドバッグや靴、さらにはアパートまでも1週間単位で試しにを借りてみるなんてことも可能です。
仕事や年金、さらに言うならフクシマの災害以来、人生そのものまでもが絶対的に確かと言えない世界に生きているのが今の若者たちなのです。

消費者動向は世界中どこでも似たような兆候が見られます。日本の若者たちは、今なお特殊ですか?
日本の若者たちにも諸外国と同様の傾向は見られますが、彼らは徐々に「閉鎖的」になりつつあります。例えばこれら若年層は、上の世代と比べると外国へ行かなくなっています。私が若い頃には、ビートルズやローリングストーンズなど、ロックグループの優れたライヴアルバムが日本で録音されたものです。東京には今でも当時を髣髴とさせるバーが10軒ほど残っています。ところが今日、こうした世界的スターの名は日本ではあまりよく知られていません。昨年私は学生を対象とする研究グループを立ち上げたのですが、そこでレディー・ガガについてどう思うかと尋ねたところ、学生たちはポカンとした顔で私を見つめるだけでした。彼らはレディー・ガガのことを知らなかったのです!
日本の若者たちに関して非常に重要なもうひとつの特徴は、彼らの人間関係がテクノロジーに依存しているということです。彼らは、スマートフォンを常時使用している最初の世代にあたります。ある調査結果によると、若者世代の53%が面と向かって話すより電話越しの方が話し易いと答えているそうです。

若い世代も自己表現を望んでいると主張されていますが、彼らはもっと積極的に外の世界に目を向けるべきですか?
かつて、若者たちは友達グループの一員として仲間と成長し、このグループの中で自己を表現していったものです。今日、こうしたグループは骨抜きになり、若者たちはインターネット上に形成されてはすぐに消滅するミクロコミュニティーの中で身を寄せ合っています。したがって彼らが自己を確立したり、自らの存在を際立たせたりすることは非常に難しくなっているのです。そんな彼らなりの解決策は、「唯一」の「奇抜」な存在になることで目立ち、また同時にコミュニティーの中で本当の価値を持つ情報を提供することです。だからこそ、各人がただひとつの興味の対象をどこまでも深く突き詰めていく「オタク」世代が存在するのです。大ヒットした漫画「ワンピース」を見るとこのことがよく理解されます。これは1人のヒーローの物語ではなく、個々の重要性が強調された複数のヒーロー、その仲間たちの物語を描いた唯一の漫画なのです。

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