新卒採用:新たな道の模索

日本の大企業は相変わらず大学新卒者の心を引きつけている。しかし、最も優秀な学生たちは、すでに違う道を進み始めている。

悩みの種は消えるのか
日本の新卒採用は外国企業にとって悩みの種だ。日本の学生たちは、国内の有名企業をいまだに特別視している。最近の調査でも日本の学生に人気の企業ランキング上位を占めるのはトヨタや電通、ソニーだ。ベンチャー企業のインキュベーターであり早稲田大学の講師であるジェフリー・チャー氏はこう説明する。「大学は学生が無名の企業に入社することを奨励できません。大学の社会的な価値は、もっぱら(卒業生が)有名企業で職を得られるかどうかで決まるからです。スタンフォード大学では、100人の卒業生のうち75人が自分で起業し、15人がシリコンバレーの企業に入社し、10人が従来型の企業に就職します。日本では、おそらく90人が従来型の企業に入社し、8人が新興企業に就職し、2人が自ら起業するというところでしょうか。」既成の企業という逃げ道が学生を間違った道に進ませてしまうと、別の大学講師は説明する。「大学教授たちは、ある会社の健康状態を見定めるために、しばしば株価の推移に頼っていますが、それは、学生のキャリアの選択のためには適切な指標ではありません。」

変化の兆し
しかしながら、日本の若者にも変化の兆しが見られる。ゴディバ・ジャパンのジェローム・シュシャン社長もそれを実感している。「新規採用は、ますます容易になっています。応募は年々増加していますし、若者たちはますます開かれた考えを持つようになっています。大学も同様です。」国際基督教大学の金子拓也准教授も、同様の印象を持っている。「学生たちの選択はまだまだ保守的です。学生の親たちは、子供が名の知れた企業に就職することが最善と考えており、学生たちはたいていそうした親たちの影響を受けます。ところが実際には、学生たちの選択はますます多様になっています。優秀な学生たちは小さな企業や投資銀行、あるいはBCG(ボストン・コンサルティング・グループ)やマッキンゼーのようなコンサルティング・グループを志望するようになっています」。別の講師はこう説明する。「男子学生は、いまだに段階的なキャリアアップを考えています。40歳で月収100万円、50歳で150万円などという具合です。女子学生は有名企業に就職し、それから結婚相手を見つけて、平穏な主婦として暮らせるだろうと考えています。しかし、世界は変わりました。企業はもはや男性に管理職を約束することはできません。そしておそらく女性は、家計を支えるために外で働かなければならなくなるでしょう」。
一方で、日本企業が新入社員に対してかけるプレッシャーはますます耐え難いものとなっている。『週刊東洋経済』によると、最初に就職した企業を1年で退職する若者がますます増えているそうだ。「われわれは、ほとんどの場合新卒者を採用することはありません。逆に、有名企業を辞職した管理職を数多く雇用しています。」そう語るのは、世界中に4億人の利用者がいるといわれるインターネット上のインスタントメッセンジャー、LINEの森川亮社長だ。慶応大学の夏野剛教授は、さらにはっきりとこう述べる。「70%の学生は、あいかわらず有名な企業への就職を望んでいますが、最も優秀な学生たちはそれ以外に目を向けています。日本の大企業の経営陣はあまりに硬直化ししており、若者たちに将来のキャリア展望をまったく描いてはくれず、エリートはそこに居場所を見つけられないからです。」そしてなにより、日本の大企業への就職が、大卒の若者に確実な未来を約束していた時代は意味のあったことかもしれないが、かつて日本の大企業の名に結びついていた雇用の安定は、ますます保証されなくなっている。自動車産業や電化製品産業のトップ企業が10年前から行っている大規模なリストラ計画は、もはや何人たりとも失業や降格を免れはしないことを示している。10年後、ソニーのような大企業が存在しているかどうかは定かではない。つまり、無名の新興企業、あるいは海外の(さらにはフランスの)企業に就職することは、よりいっそう魅力的になったのである。

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