日本の若者考

様々な業種の企業経営者から見た日本の若者の印象とは?ニコラ・メナー(ビーコン・コミュニケーションズ)、ジェローム・シュシャン(ゴディバジャパン)、山田芳一(TASAKI)、西村豊(リシュモン・ジャパン)、小林朱美子(クラランス)、アレクシー・グレゾヴィアック(ゲームロフト)の各氏に話を聞いた。

「日本の若者は次第に元気になっています。」ニコラ・メナー、ビーコン コミュニケーション 代表取締役社長
現代の日本の若者には、変わらぬ大きな活力があります。2011年3月11日の震災以前よりも今の方が元気なくらいです。彼等は政治には興味を示しませんが、なかには自国への誇りが育まれているように感じます。これには、2020年の東京オリンピック開催決定というニュースも関係しているでしょう。開催地に選ばれたことが日本の若者に自信と誇りを与えたのです。彼らは日本が蘇ったと感じています。国内経済も持ち直してきました。そして3.11以降も高級ブランド品は非常に根強い人気を維持しています。日本人も常に自分にご褒美を与えたいのです。
若い世代の変わらぬ特徴として、彼らのブランド志向が挙げられます。エルメスなど確かな人気を築いているブランドは、2009年の経済危機をかすり傷一つ負わずにやり過ごしました。若者たちにとってブランドとは成功の証なのでしょう。必要最低限の物しか買わないし、昼には500円の弁当を食べる、しかし高級品を手にすることでささやかな贅沢を楽しむのです。彼らはとても多くの情報を持っています。商品を選ぶにあたってブログやその他のソーシャルメディア上でこれほど時間をかけて情報収集する国民を他に知りません。彼らは手に余るほどのコミュニケーションツールを携えているのです。日本の若者は広告に興味を持っています。彼らにとって広告はコミュニケーションの手段です。欧米ですと広告は邪魔者扱いですが、日本では情報提供のひとつの形として受け止められており、若者たちの好奇心をかきたて、ブランドの新製品の情報を提供する役割を担います。というのは、各ブランドはこの国で絶え間なく新商品を発表します。安定した人気を誇るブランドでさえ、常に新しいものを導入していかないと忘れ去られてしまいます。
一方、「1つのブランド」にこだわるタイプの消費者は姿を消しつつあります。ルイヴィトンだけ、バーバリーだけを身にまとった若者はもはや見かけません。今や時代は、言うなればプラダ&ザラ。プラダのような高級ブランドを、より「ベーシック」なザラと合わせて身に付けることも彼等にはアリなのです。

「自分志向の消費者が増えています。」ジェローム・シュシャン、ゴディバジャパン 代表取締役社長
一口に若者と言っても、この世代は17~25歳と25~30歳の2つに分けて考えるべきです。まず、17~25歳世代は何をするにもその前に「一体何のためになるのか?」と自問する冷めた若者たちです。こうした若者を日本のメディアはしばしば「草食系」と呼んでいます。一方、25~30歳の若者はより活動的かつ楽観的で、彼らは仕事と家庭の両立は可能だという考えの持ち主です。
ブランドに関しては、今の若者たちは80年代から90年代の快適さ溢れる豊かな日本で育った世代ですが、彼らは徐々に本物を見抜く力を身に付けています。ゴディバでの消費形態がより自分志向になってきているのも、そのあたりに理由があるのではないでしょうか。若者たちは、バレンタインデーにはこれまで通りチョコレートを自分の上司や恋人に贈っていますが、ここ数年自分が食べるために買う人が増えています。そういった理由で、当社のセレクション「My first GODIVA (マイ ファースト ゴディバ)」の売上はすこぶる好調です。「集団順応主義」は重視されなくなり、商品の数は増えていきます。結果的に、新製品の発表サイクルはどんどん短くなっています。毎年新しい商品を打ち出さなければならないのです。
新世代の消費者に共通するもうひとつの新たな志向として、小売形態の間にあった垣根の消滅が挙げられます。販売場所の選定が重要だった昔とは異なり、それほど重要でなくなりました。当社ではコンビニエンスストアのセブン・イレブン向けの商品を発売しましたが、コンビニでの販売がゴディバ直営店舗での売り上げを減少させることなく、逆にコンビニでゴディバを知った新たな顧客が当社の直営店舗を訪れてくれるようになったのです。こうした試みは15年前には実現不可能だったでしょう。
あと個人的に思うのですが、日本の若者には残念ながらチャレンジ精神が不足しているようように思います。少なくとも中国など他のアジア諸国に比べるとかなり少ないと感じます。

「若者向けにファッション性が高い製品を開発しました。」山田芳一、TASAKI 専務取締役
日本の若い女性の大半は、真珠のネックレスがあくまで母親向けで冠婚葬祭にしか着けない、自分が身に付けるものではないと考えていました。そこで当社ではファッション性が高く、イヤリングやペンダントなど、普段から着けられる商品を開発しました。そう言ったジュエリーは2,000ドル(約20万円)以下で購入できます。当社では5年かけて商品ラインナップを見直し、若い女性の取り込みを図っています。

「若者が求めるのは製品ではなく贅沢な体験です。」西村豊、リシュモン・ジャパン 代表取締役社長
高級ブランド品市場は変わらず好調です。新たな世代とともに価値観も変化しているのかどうか、そのあたりは私にもわかりません。ですが高級品市場が大きく変わりつつあることは事実です。欧米と異なり、日本では若者や一般市民が高級品の重要な消費者です。日本人にとってブランド物の服を身に付けることは、成功の象徴でした。しかし今時の若者たちには親の世代と同じようなブランド品所有欲は感じられません。もはや中産階級としての立場を得ようと努力する必要はないわけです。そこで彼らは戦いを止め、ステイタスとしてのブランド品を買う必要もなくなりました。仕事に喜びを覚えることはあっても、トップを目指そうという野心はありません。学校教育も競争やライバル意識を煽るのではなく、どちらかと言えばお互いの協力を促すことを重視しています。給料が年功に応じて上がっていくとか、会社に留まれば自動的に昇進するという考え方も、主流ではなくなりました。
現代の高級ブランドは大衆消費という括りで捉えられています。消費者が求めているのは製品よりも、例えば温泉でのひとときを楽しむとか、上等なワインを賞味するといった贅沢な「体験」です。2月の初め、リシュモンの腕時計の見本市を開催しました。来場者はコアな時計愛好家だけだろうと思っていましたが、蓋を開けてみると若いカップルが大勢訪れました。この腕時計ブランドからにじみ出る永続性と職人技が彼らを魅了したようです。

「私たちが若者に合わせなければなりません。」小林朱美子、クラランス 元代表取締役社長
若者たちがバーチャルな世界に惹かれているのは確かですが、現実世界が消えたわけではありません。私たちはこの世界で生活し、飲食し……そしてもちろん化粧品も(!)買わなければならないわけです。
私たちの世代は上の世代をお手本として、行動の前には熟慮を重ね、成功の証を身に付けるためにお金を使ってきました。しかし今の日本の若い世代は、独立しています。彼らには彼ら自身のルールがあり、自分が何を欲しているのかよくわかっています。いかにプライベートな時間を充実させるか考えています。ゆとりある生活を失いたくないからと、昇進を拒否する管理職もいます。若い社員に気に入らない仕事をやらせようとすると、辞めてしまいます。このような若者たちは、倹約を善しとしています。雑誌には若者向けのこんな記事もあります。『1枚のTシャツを1001通りに着こなす方法』 私たちが若者に合わせていかなければなりません。「オールドエコノミー」の企業も、有能な社員を採用するため、また消費者を店舗に呼び込むために変わらなければならないのです。クラランスのような化粧品会社にとって40歳以上はもちろん重要な顧客ですが、当社ではLINEなど若者メディアを通じて若い顧客の心をつかむ方法を模索しています。

「若者はバーチャルな世界に向かっています。」アレクシー・グレゾヴィアック、ゲームロフト 代表取締役社長
日本の若者はモノや現実世界から離れて、デジタルな娯楽を求めているように見えます。自宅に1冊も本がないという若者を何人も知っていますが、本を一切買わない人がいるなんて10年前には想像もできませんでしたね。また仮想空間で使用するアイテムの購入に給料を全部注ぎ込んでしまう人もいます。かっこいい車には興味がないけれど、インターネット上でバーチャルなアイテムをたくさん買い込んでいる。実生活ではどちらかというと愛想がよく、悪く言えば受動的ですが、ゲームの世界では非常に攻撃的になります。ただしゲームの中では競争心よりも協力心が旺盛で、超人気ゲーム「パズドラ」でも彼らは皆でグループを形成し、共に協力しながら目標を達成します。5年前には存在しなかったオンラインゲーム分野の成功は、協力の精神が次第に重要性を帯びていることを示すものでもあります。ところで日本の若者はゲームでの勝ち負けにこだわっていません。その世界で得られる特別な体験を楽しみたいと考えているのです。

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