日本サッカーの今日と明日

日本サッカーの今日と明日

前日本代表監督フィリップ・トルシエが日本サッカーの現状を分析

素晴らしい選手育成機関
私が日本代表の監督だった頃から、日本には世界的にトップレベルの若い選手たちを養成するセンターがいくつかありました。選手たちは、そこで教育され、精神を鍛えられ、類まれな従順さを発揮するのですが、それは、(監督ではなく)教師に教わった歴史の授業かピアノのレッスンのように、教えられた通りのいわば教科書的なものでした。この育成方法によって日本人は本にかかれたゲームの法則を学び、それに従おうとしていました。他の国、とりわけフランスの選手はピッチ上でプレイのやり方を学びます。彼らは法則に従うのではなく、法則を「利用」しようとします。当時は、日本チームがプレイすると「バカ正直」だと評されたものでしたが、彼らは単に正直だったのです!今、若い選手の中には、日本で訓練を積んでからヨーロッパで荒っぽさを学びに出かける選手も出てきました。ハノーバーの後、マルセイユでプレイしている酒井宏樹や、過去にはル・マンでプレイした松井大輔がいます。

好ましい流れ
日本は恵まれています。世界レベルで審判が厳格にジャッジする傾向が増えているからです。サッカーはボールを操ることが重要視され、相手選手の身体を制御することは次第に重要とされなくなっています。これは一人ひとりがチームのために協力し、積極的に動くスペイン風プレイスタイルです。そこではフィジカル面より技術面が重要です。この傾向は日本のような「チームプレイスタイル」の練習には功を奏します。日本や中国、韓国チームなど、すでにトップ6に入る女子サッカーにおいて、とても印象的でした。これらのチームは非常に結束が固いのですが、リオネル・メッシのような個人プレイタイプはいません。フランスやその他の国はこの逆の現象、つまり、チームの中にあまりにも規格外の選手が多いことに苦しんでいます。11人もの卓越したプレイヤーを抱えていては良いチームをつくることはできません。「財の多きは害にならず」という諺はサッカーにおいてはあてはまりません。50人のソリストで大編成のオーケストラを作ろうとはしないでしょう。ジミー・ヘンドリクスがギターソロを止めなければならないときがあるのです。 監督にとって最良の組み合わせは強固なチームプレイと2人の卓越したプレイヤーです。私は、ナショナルチームの監督は演出家なのだと常に言っています。監督は、既に訓練されたプレイヤーを並べ、そこから可能な限り最良の組み合わせを短期間で見つけなければならないのです。監督は、土曜日の試合に向けて、その週の木曜日から準備するのです。

2018年ワールドカップに向けて
チームプレイに向かう傾向は、日本に有利に働きます。日本がワールドカップ予選で勝利を勝ち取るための条件は、しっかりと準備をし、くじ運が強く、チーム力があること。そして十分な資金です!それさえあれば、理屈では、誰もが勝利するはずです。ギリシャは2004年のユーロ(UEFA欧州選手権)で見事に優勝しました。
実際、日本は地理的にも情報的にもサッカーという星に君臨する欧州大陸と切り離されています。選手はゴルフのような「完璧な動き」を追求することにこだわり、努力の80%をそこに費やしています。日本の選手は欧州の選手のように「柔軟な頭で切り替える」ことなく、「勝利」に向かうインスピレーションの脇を通り過ぎてしまっているのです。日本人選手が国を離れヨーロッパに渡ることは、絶対的に不可欠です。そうしなければ、日本のサッカーは再び凋落してしまうでしょう。
フィリップ・トルシエ

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