機械の天下

自動販売機――日本の流通において果たす大きな役割

なくてはならない存在
「妻が電話してきましてね。パリの街を歩いていてコカ・コーラを買おうと思ったのに、どこにも自販機がないと言って怒ってるんですよ。きっと日本での生活が長すぎたんでしょうね!」と笑いながら語るのは、東京に長く暮らしているフランス人。日本では都市風景の一部となっている自動販売機だが、確かに路上はもちろん、駅のプラットホームやオフィス、そしてレストランの中にまで、どこにいてもその姿は目に入る。さらには工事現場などにも、ビルや住宅の建設期間限定で専用の即席自販機が登場する。
日本には500万台以上の自動販売機があるとされるが、これは計算すると国民24人に1台という数になる。自動販売機製造事業者により構成される日本自動販売機工業会(JVMA)によると、この率は世界で最も高いものだという。店舗以外での販売額に占める自販機の割合は7%に達しており、これは通信販売と同レベル。このような自販機の普及ぶりには、治安の良さと質の高い物流サービスという日本の強みがよく表われている。1日の終わりを迎える頃、自販機はいわば現金がぎっしり詰まった巨大な貯金箱と化すわけだが、どこを見渡してもこれを破壊しようとする者はいない。夏場には一日に3回もストックを補充される自動販売機もあるというが、フランスではちょっと考えられない手際の良さである。

イノベーションの宝庫
自動販売機の主流商品は飲料やタバコ、新聞、玩具などだが、このうち全体の半数を占めているのが飲料用の販売機だ。この分野では国内100万台以上の自販機を設置しているコカ・コーラが最大手で、その後にサントリー、アサヒ、伊藤園が続く。「面白いのは自販機が電子機器メーカーと販売業者とを結び付けているという点で、ここにはイノベーションがたくさん詰まっています。購入者の性別を認識可能なディスプレイを備えた最新モデルだと、男女の性別に応じてお勧め商品を提案する機能が備わっています」と楽しそうに語るのは、伊藤園の自販機でペットボトル入りミネラルウォーターを販売しているエビアンのフローレンス・ボサール氏。加えて、自動販売機は効果的な広告媒体でもある。福島の原発事故後、自販機は電力消費が激しいとして批判を受けだが、その後にコカ・コーラが開発した自販機は、夏季に1日16時間電力供給なしで稼動できるものだという。

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