特集 : 東京、勝利の決め手は

「オリンピックをきっかけに、世界中の人々が日本を発見することになるでしょう」

オリンピック招致のため、東京の情報発信を指揮したのは、コンサルタント会社「Seven46」の創業者ニック・バーレー氏。日本の首都、東京の勝因について同氏に話を伺った。

日本人は国際舞台におけるコミュニケーション能力に欠ける、とよく言われる。日本人をこの通説からどのように「解放」したのか?
私たちが直面した問題は、日本のリーダーたちが国際舞台で発言することに慣れていないという事実だった。国内における彼らのコミュニケーションスタイルは、非常に独特だ。彼らは、謙遜さや慎み深さを重視するが、積極的な売り込みが要求されるオリンピック招致にあって、これらはやってはいけないことのオンパレードなのだ。
2016年五輪招致の失敗が、ひとつの教訓になっている。当時、技術的観点から見て最も素晴らしいプレゼンテーションをした東京は、これで十分勝てるはずだと考えた。しかし、実際には語るべきストーリーをもたない、非常に味気ないプレゼンテーションだった。東京はこの失敗から多くのことを学ぶ。英語やフランス語能力の点で至らない部分が目立っていたので、それらを克服するために多大な努力を払った。

いつから招致チームと共に仕事をするようになったのか?
彼らは2011年10月に訪ねて来たがが、その際、 (勝つためには)もっと魅力的なストーリーが必要だということに既に気づいていた。どのようなチームを作りたいのか、そしてどんなメッセージを伝えたいのか――彼らは非常に明確なイメージを描いていた。最終プレゼンテーションが功を奏した、という声をよく聞くが、あそこで披露したのは、実は私どもが2年も前から世界各国で行ってきたプレゼンテーションの改良版に過ぎなかったのだ。

東京の外国報道関係者は、東京都が発信するメッセージにある種の逡巡(しゅんじゅん)の空気を読み取っていたようだ。メッセージの中で、例えば東北地方や福島を襲った悲劇への言及を躊躇しているような印象があったが。
どのオリンピック候補地も、まずは自国民の支援を得るための動機が必要だ。そのため東京の招致委員会は、福島原発事故を経験した国でオリンピックを開催する意義を強調しながら、国内PRを行った。しかし一方で国際社会においては、多くの場合国内向けとはまた別の動機を掲げなければならない。例えばIOCにとって重要なのは、オリンピックが候補地に何をしてあげられるかではなく、開催地がオリンピックという大会に何をもたらし得るのか、という点だ。東北を利用するのは、言ってみれば東京に票を入れるようIOCに「すがりつく」ようなもの。日本人にとっては非常に重要なことであっても、こうした方法がうまくいくとは限らない。

福島原発事故が招致に及ぼす影響について懸念はあった?演説の冒頭、原発事故に触れるよう首相に進言したのはあなたか?
この2年間、私たちが福島原発事故の問題を召致の大きな不安材料として意識したことはなかった。それが最後の週になって突然、世界のメディアの大見出しを飾るようになるとは! 懸念を解消するには、演説の冒頭でこの件に関し可能な限りクリアに説明しなければならなかった。そのことを、首相をはじめチーム全員が認識していた。イスタンブールは6月に勃発した反政府デモについて一切触れなかったが、IOC委員の多くがこの問題を気にかけていた。
聞き手を納得させることが全て。聴衆の側に懸念があるのなら、プレゼンターは尚更公明正大に説明しなければならない。福島原発事故の件は、これをどのように伝えるかが焦点だったと私は考えている。首相自らこの話題に対する意見を堂々と述べたことで、本件に関する論争はまるで冷めたスフレのように急速にしぼんでいった。

国際スローガン「Discover tomorrow――未来(あした)をつかもう」はあなたの作品。このメッセージを選択した理由は?
このメッセージには、私たちが東京の最大の魅力と考える2つの要素が凝縮されている。まず「Tomorrow(明日) 」。東京はイノベーションと発明の中心地であり、欧米諸国よりも1年早く新たに実用化した新技術を目にすることができる。そして「Discover(発見する)」。日本のような国は世界のどこにもないと言える。成田空港でバス会社の社員がチケットを受け取る時に深々と頭を下げるのを見た途端、自分は特別な場所にいるのだ、と気づく。オリンピックをきっかけに、世界中の人々が日本を発見し、日本も海外との繋がりをさらに深めることになるだろう。

プレゼンターはどのように選ばれたのか?
この種の立候補にあたり、要求されるのは国の持つ多様性を表現し得るスポークスマンであり、年配の重鎮をゾロゾロと並びたてることは絶対にしてはいけない。今回のプレゼンターの半数は若い女性で、彼女たちこそ本来の日本のイメージを代表している。プレゼンターの1人滝川クリステルさんはフランス語が堪能だが、これはフランス語圏アフリカの委員を始め、多くの委員にとって非常に重要なことだった。

最後の最後に全てが決まる、というのは事実?
接戦の場合には恐らくそうなろうだろう。となると、最終プレゼンテーションでは聞き手にぜひとも良い印象を与えることが重要になる。2016年オリンピック招致活動の際は、日本の熱意がうまく伝わらなかったが、今回ついにその願いがかなった。

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