特集: 苦い米

政府、コメ長者との対決には及び腰

2013年11月末にメディアが初めてこの話題を取り上げた時、安倍首相の戦略に真っ向から対立していた人々は沈黙した――その思い切ったやり方に驚き、言葉を失ったようだった。アベノミクス第三の矢である「構造改革」は、当初改革案の具体化作業が難航したようだったが、首相はついにコメ生産者を対象とした歴史ある補助金支給制度「減反」の廃止を決定、強力な圧力団体である農協(JA)との対決の道を選んだのだ。まさに、あえて火中の栗を拾いに行くようなものだった。「この件に関しては、どのメディアも誤った報道をしていましたが、JAの機関紙である日本農業新聞だけは別でした。今回の改革はただ、農協組合員が恩恵を大いに享受している農家支援制度の廃止を意味するものではないことをよく理解していたのです。」と指摘するのは、農水省にて30年のキャリアがあり、現在はキャノングローバル戦略研究所で研究主幹を務める山下一仁氏だ。
第二次大戦の終結以来、自民党はその票田である農家の顔色を伺い、中でもコメ生産者を国内外の市場変動から手厚く保護してきた。経済情勢に左右されることなく、安定的かつ十分な収入レベルを稲作農家に保証してきたのだ。このため日本は、海外で生産された競争力の高いコメの輸入に待ったをかけた。90年代には高い関税障壁を設け、例えばタイ米の輸入に際しては、当初価格の実に778%に相当する複数の関税が課されることとなった。
国内市場の縮小と、その結果生じるコメ価格の下落に対処するため、国はこの他にも数多くの施策を打ち出した。1960年代初頭、一人あたり118キロあった日本人のコメの平均消費量は、昨年には56キロまで落ち込んだ。こうした大幅な需要の低下に対処するため、政府は段階的な生産量の削減政策をとった。これは年に一度、行政が国内消費量を見積もり、それに応じて作付面積を減らす努力を農家に求めるというものである。面積の縮小、すなわち収穫量の減少に応じた農家は、「休耕田」1ヘクタールあたり最低15万円の補償金を手にすることができる。この補償金は、農家が農業経営の維持を表明する限り継続して支給されるが、彼らはこうした所得補償を得る一方で、これまでの稲作用地を他の作物に転用し、さらに別の資金援助を受けられる可能性もあるのだ。
補償金のため年間5千億円の公的資金が投入され、さらに5千億円の負担が国内消費者の肩にのしかかっており、山下氏はこの減反政策による損害は極めて大きいと指摘する。「つまり1.8兆円のコメを生産するために、合計1兆円 の負担が生じている計算です。」山下氏は、特に問題なのは、この制度により農村部において現代化への努力が行われなくなってしまったことだと言う。生産量を減らすよう推奨され、さらに競争からも隔離された農家が生産性を高めるための努力を完全に放棄した現状は、他のアジア諸国と比較しどれほど馬鹿げたことか理解できる。多くの農業従事者は兼業農家となり、補助金を受け取る権利を維持するために週末だけの農作業に甘んじている。所有地を手放したくない彼らは、最終的に農地集約計画による収益性の高い大規模農業の発展を阻害する要因となっている。こうして日本の耕地は平均1ヘクタール未満の小区画を有する120万戸の農家に細分され、その結果日本の農業は世界レベルでの競争力を完全に喪失した。実に惨憺たる状況である。
この補助金制度は日本の貿易相手国からの批判にさらされ、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉の中でその見直しを迫られている。だがその一方で世論はこれを受け入れ、大政党の議員からの異論もほとんど聞こえてこないのが現状だ。前政権を担った民主党は2010年、この制度に軽微な修正(その実態はさらなる改悪)を加えたが、今回安倍政権が廃止すると謳っているのは最近行われたこの修正のみ。これに対する山下氏の意見は「一言で言えば、今回発表された改革は大がかりなまやかしのようなものなのです。」と手厳しい。

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