終身雇用の盛衰

安定雇用の恩恵を次第に受けられなくなりつつある日本のサラリーマンたち。だが、この安定雇用もまた一時の現象だった。


革命
38パーセント、これは日本の就業人口における非正規雇用の割合である。20年前、この数字は20パーセントにすぎなかったが、これは何かが進行(エヴォリューション)していることを示しているのか?いや、それはむしろ革命(レヴォリューション)の結果だと言えるのではないか。1920年代から1980年代終わりにかけて、日本は労働市場を終身雇用という土台の上に築きあげた。終身雇用方式の採用自体、当時としては一つの革命であったと言える。終身雇用を生んだのは、忠実さと忠誠心という美徳に対して、日本人がこだわりを持っているという仮説ではなく、「一つの計算」だったのである。1920年代までは、「労働市場はどちらかと言えば流動的で、活発的、競争的でした。当時はホワイトカラーとブルーカラーははっきりと区別されていた時代で、日本のサラリーマンは、タフな労働者であったわけでも、特定の雇用者に忠実であったわけでもありませんでした。」一橋大学の森口千晶氏は、専門誌『ジャパン・レイバー・リヴュー』に掲載された画期的な論文でこう述べている。今から1世紀前、明治時代の労働の流動性に関する上記の記述は、今日の中国で外国人管理職たちが口をそろえて、現地職員を辞めさせないことの難しさを語る光景が思い起こさせる。

終身雇用制度は、もともと雇用者とサラリーマンとの間における社会的合意の結果であった。サラリーマンにとって安定雇用とは、年功序列による昇進に基づき、たとえ経済危機の時期であっても、キャリアと報酬が常に上昇し続けるという見通しを与えてくれるものであった。しかしながら、この年功序列による昇進は、決して黙っていても得られるものではなく、管理職による評価のもと、社員が常に能力を向上させていくことが前提にあったのだ。

それと引き換えに、雇用者側は従業員たちの全的な献身を当てにすることとなる。すなわち、家庭から遠く離れた地への突然の異動、再配置、残業・・・そして、ひどいときには給与の「調整」(つまり「減給」)を食らうこともあるのだ。部署ごとではなく会社ごとに組織される労働組合は、この方式を了承した。そして、この終身雇用システムは 「ブルーカラー」 だけでなく「ホワイトカラー(管理職)」にも同様に適用されたのだった。


「ウィン・ウィン」の関係
国内の産業化に挑戦した日本の大企業は、全従業員に会社に対する忠誠心を持たせる必要性を感じていた。戦後、日本の強力な労組運動は、終身雇用が企業にとって最も重要であることを、会社側に認めさせたのだった。森口千晶氏によると、このシステムの普及こそが、生産ラインから最終消費者への販売まで、日本企業が達成した品質・サービスの水準の高さの主な理由の一つだという。

こうして日本は、失業率5.6パーセントのラインを決して越えることなく、25年間景気低迷期を過ごしてきた。確かにこの雇用制度は、最近まで家庭の唯一の稼ぎ頭であった「男性」たちのためのシステムだった。女性たちは、母親、あるいは場合によってはパートタイムに出ることもある妻という「使命」に縛り付けられたままだったのだ。


再び雇用に命を!

その終身雇用制度が今、音を立てて崩れ落ちていると言われている。これまで同制度は、有名大学出身の学生を獲得するために主に大企業で採用されてきた。森口千晶氏はその理由を、「(同制度は)経済的には合理的であり、誰にとっても魅力的であるからだ」と言う。同氏によると、日本の大企業はこのシステムが極めて有益であると考え、ときには海外の子会社にもそれを導入したほか、米国も一部その影響を受けていたと考えられている。だが今は、女性や新卒社員といった新参の働き手にとって、安定的な雇用は単なる美しい夢にすぎない。90年代はじめ、どの企業も突然業績の見通しが悪くなり、「(学生の)アルバイト」や「派遣」といった非正規雇用を増やしていった。20年ぶりの日本の景況好転にもかかわらず、この非正規雇用の傾向が方向転換することはなく、むしろ小泉純一郎政権時代に加速された。2009年、日本で初めての「完全な政権交代」と言われた民主党政権の誕生の際、民主党はサラリーマンのために方針を180度転換させることを約束した。この約束の裏にあったものは、寛容さではなく、新たな計算だった。民主党が望んだのは、輸出産業に頼り続けるのではなく、サラリーマンに購買力を取り戻させ、日本が成長するためのバネを国内に見出すことだった。こうして終身雇用は、若い新卒社員らにとってさらに魅力的なものとなった。「安定雇用は、常に収入よりも重要なんです。」在日フランス商工会議所人材開発部 部長のナタリー・ボッティネリはこう説明する。 


アベノミクス

安倍首相は、自身の経済政策が企業の雇用を後押しすることを期待し、また企業には賃上げを要求した。多くのエコノミストらは、就業人口の低下につながる日本の人口減少問題の対策として、終身雇用の復活と給与上昇を歓迎していた。だが、政府は企業の経営陣に圧力をかける具体的な手立てを欠いていた。経営陣は一般的に日本の国内市場しか視野に入れていないため、社員の残業時間を増やしたり、パート社員を雇ったりするほうを選択したのだ。結果、日本の無期限雇用契約は1パーセント後退する一方、期限付き雇用契約は2年間で9パーセントも跳ね上がった。

改革を待ちながら

過度に保護されるサラリーマンたちと、非正規雇用の労働者たち

完全な保護

終身雇用賛成派ですら、サラリーマンの無期限雇用契約に依拠するシステムが、過保護であると認めている。ある女性弁護士はこう説明する。「社員が特別に無能である、あるいは会社が特別に財務状況が悪いということがない限り、日本の判例では解雇は正当とは見なされていません。」モルガン・スタンレーのチーフ・エコノミスト、ロベール・フェルドマン氏も同意見だ。「日本では、解雇制度があまりに漠然としているのに加え、リストラはあまりにコストがかかり過ぎます。それが、企業がなかなか終身雇用を行わない理由です」。


不安定雇用の時代

逆に、不安定労働に縛られた人びとは、原則的に、安定雇用の恩恵を受けることができない。非正規雇用者の収入は、正規雇用の同僚の30%から50%下回る。失業保険の受給権はあるが、極めて限定的なものだ。65歳以上の半数はこの不安定雇用(非正規雇用)状態にある。


改革は中断状態

この双方の格差の是正は、2012年12月に発足した安倍内閣が公約に掲げる構造改革アジェンダの大きな柱の一つである。だが、それは死文のままとなっている。「雇用問題は、ロビイストたちの人質状態です。労働政策審議会は厚生労働省の所轄ですが、そこでサラリーマンを代表す労働組合は、働き手の18%を代表しているに過ぎず、雇用主側は大企業の代表者しか送り込んでいないので、雇用の僅か10%を代表しているに過ぎません。しかも、学識経験者が集められるのは東京からのみです。この審議会自体、「仕事」にかかるまで非常に時間がかかるという有り様です」とロベール・フェルドマン氏は嘆く。

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