緒方慎一郎の世界

緒方慎一郎は、いま日本で最も偉大な デザイナーの一人であり、日本の伝統 や職人技と現代の世界を結びつける 数少ない人物の一人だ。日本を飛び 出し、料理やお茶、日本的なライフス タイルのためのスペースをパリに開設 しようとしている彼が、自らのデザイン のコンセプトを語る。

あなたは、デザイナーと同時にインテリアデ ザイナーでもあり、自ら経営するレストラン と和菓子屋のメニューの考案者でもある という特殊性をお持ちです。こうした全体 論的なアプローチは、あなたにとって重要 なのでしょうか。
私は何の専門家でもありません。私はできる かぎり自由でいるために、あらゆるものに触 れられるようにしておきたいのです。インテ リアデザイナーとしてキャリアをスタートさ せたのもそのためです。私はすぐにでも私自 身の世界を作り出したいと考えていました。 文化は、建築であれ、料理であれ、デザイン であれ、いかなる専門分野にも帰することが できないものだと思います。文化は、あらゆ るものの総体なのです。私が語ろうとしてい るのはストーリーです。今日において日本的 であるとはどういうことかというビジョンを 提示し、このビジョンを次の世代や外国人に 伝えようとしています。これが、私の責任だと 思っています。

現在、日本は自らの伝統と職人の世界に閉 じこもっているように見えます。
日本は、現代の世界への適応に失敗したの だと思います。日本の文化はこの百年でそれ ほど進化していません。すべてが変わり、す べてが進歩した日本で、文化だけはそのまま です。私は文化を再解釈しようとしています。 体験を通じて文化を身近なものにしたいので す。私は、優れた職人に出会ったら、彼自身が 考えもしなかった予想外の方向へと彼を後 押ししています。その技術を今日において意 味のあるものにするためです。例えば、懐石 料理はとっつきにくい体験になってしまい ましたが、心を豊かにする、非常に現代的な 体験になりうるものだと思っています。

少子化が進む日本で、努力することや時間 をかけることに価値を見いだせない時代 において、まだ独創的な才能を発見するこ とはありますか。
はい。多くの若者が今日、職人技に魅力を感 じ、日本のなかに発想を求め、本源に立ち返 ろうとしています。彼らは世界も知っており、 旅行体験もあり、インスピレーションの源もた くさん持っています。私は心配していません。

料理と関連したものを作るとき、何か大事 にしている規則はありますか。
皿や調理器具を考えるときは、その用途やそ こに入れる食材などに加え、それを使う場面 や、なぜ他のものではなくそれを選ぶのかと いった理由を考えます。製品を作るとき、見 た目にはこだわるけれども、機能にはあまり 関心のない人が多いのです。このアプローチ が、製品を貧しいものにしていると思います。

あなたがパリに開こうとしている日本関連 のスペースについて話してください。
パリは世界の交差点であり、フランス人は日 本の美学を理解しています。このスペースは、 現代日本のアイデンティティの本質を体現す るものとなるでしょう。できるかぎり現地の材 料や食材を使用するつもりですが、フランスで 手に入らないものは日本から取り寄せます。

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