脱走者

日本発オンライン証券会社を創設 

あのゴールドマンサックス証券(GS)に採用される聡明さを持ちながら、同社をあっさり辞めてしまうというあり得ない選択をした人物――その名は松本大。東大卒、業界の全てに精通する同氏はGS社員として輝かしいキャリアを歩んでいたが、やがて人生を変える運命の出会いに遭遇する。彼が見出した相手、それはインターネットだった。小規模個人株主向けにオンライン証券会社を設立すれば、金融業界に革命をもたらすことができるのでは――彼の脳裏にそんなアイデアが閃いたのは、日本にインターネットが広まりつつあった1990年代末のことだった。「インターネットは金融業界に多大な影響を及ぼすだろうと考えていました。金融界で取り引きされるのはまさに実体のない資産だからです」と松本氏は語る。だがこのアイデアを会社に提案した時、上司の反応は芳しくなかった。「GSの商売相手は金融機関であって個人ではない」というのがその理由だ。そして1999年、彼は友人2人と組んでマネックス証券を創設する。「アイデアはいくらでも出てきましたが、私たちが求めていたのは数人で運営できるビジネスモデルでした。こうしたビジネスモデルの存在は企業の立ち上げに不可欠でした」と同氏は当時を振り返る。現在1,000名の社員(その4分の3が米国に勤務)を擁する同社の自慢は、日本と米国、そして中国に支社を有する唯一のオンライン証券会社であるという点だ。先見の明と言うべきだろう、日本では小規模株主による取引の90%がオンラインで行われている。しかしGS時代のある同僚は、株について日本人が抱いているマイナスイメージが足枷となり、マネックスは伸び悩むだろうと予想する。「30年間この業界にいますが、その間こうした傾向に変化はありません。我々日本人の間には株式投資の文化が育っていないのです。資産運用にあたり、日本人は証券会社よりも銀行に行くことを好みます。松本氏もいずれはマネックスを売却することになるでしょう」というのがこの元同僚の見立てだ。

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