飯田陽一氏

経済産業省で航空産業部門のトップを務め、3年間のパリ暮らし(独立行政法人新エネルギー産業技術総合開発機構から出向)で、フランスの事情にも精通した飯田陽一氏が、日本とヨーロッパの協力関係の未来像を描いてみせる。

航空産業における経済産業省の役割は何でしょうか?

世界の航空産業を取り巻く市場は、製造、空輸、リース、貿易等、様々な分野の役者を取り込み、多くの労働力を動員し、年率5%の勢いで成長し続けています。この成長市場において、日本の産業界のシェアを伸ばすこと、それが私たちの願いです。日本の機体構造部門での生産者は三菱重工、川崎重工,新名和工業、日本飛行機の4社、エンジン部門ではアイ・エイチ・エス、川崎重工、三菱重工の3社があります。ジャムコは航空機内装を手がけ、パナソニックは機内娯楽のパッケージを製造しています。他にも、東レ、東邦テナックス、三菱レーヨン、大同特殊鋼、日立メタルズ、神戸製鋼といった企業がこの産業に素材を供給しています。航空会社では老舗の日本航空と全日本航空に加え、今やロー・コスト航空会社も続々と参入してきています。

日本とヨーロッパとの関係はどうあるべきでしょうか?

川崎重工はユーロコプターと半世紀に渡る協力関係を築いてきました。両社が共同開発したBK117は大変好評を博し、1000機以上を売りました。A380の開発には20社におよぶ日本企業が参加しています。そして今年は、本格的な政治協力の元年となります。超音速機の分野ではすでに2007年から日欧産業界共同の取り組みがスタートしています。今後はヨーロッパ、なかでもフランスとの関係を一層深めていくことが私たちの願いです。「日本の航空産業は閉鎖的」というのは思い込みにすぎません。私自身、この役職(航空機武器宇宙産業課長)に就いた時に日本中の企業を視察し、こんなに多くの国際事業が行われているのかと驚いたものです。神戸に物流センターを開設したユーロコプターがその一例です。

経済産業省は航空産業への企業集中を推進すべきでしょうか?

いえ、それは企業の自由です。企業が集中しなくてはならない理由はありません。企業はそれぞれの力を持っています。ヨーロッパにおいても、イーエーディーエス以外にもタレスやサフランなど好調な企業があります。

「MRJ(ミツビシリージョナルジェット機)は費用ばかりがかさむ、信頼に値しない計画」といった批判にはどのように答えられますか?
航空産業は長いスパンで考えるべきもので、採算ベースに乗るのに20年、30年といった長い年月を要します。エアバスやボーイングもそこを経てきたのです。炭素繊維を例にとってみましょう。この業界は製品開発と同じ速度で発達を遂げてきました。航空機の製造には先端技術が幅広く応用されています。今後の成り行きは当然懸念されますが、三菱重工は始めからこのプロジェクトのリスクを予見していました。MRJ計画はそれでもいつかきっと実を結ぶでしょう。

日本の航空産業は、年を重ねたと見られる自動車産業の後を引き継ぐことができるとお考えですか?

いえ。自動車は消費材の範疇に入ります。新興国の自動車需要は急速に高まっています。自動車はすでにグローバル化の裾野が今や世界中に行き渡っています。これに対して航空産業は、未だに日本やフランスといった先進国でしか実現していない産業であり、今後もそうあり続けるでしょう。ですから先進国以外の地域に生産拠点を移すことはこの産業では考えにくいのです。

今年のパリ航空ショー(パリ、ル・ブルジェ空港で開催される航空宇宙機器国際見本市)は日本から大規模な代表団を受け入れることになっています。これについてどう思われますか?

航空業界人にとっては、文句無しに世界最高の見本市です。わたしがこの分野の日本の中小企業を視察した時も、「商談が成立するのはル・ブルジェの会場だ」と皆が口々に言っていました。私たちの見本市は未だ国際規模に達したとは言えません。今年ル・ブルジェには日本から29企業が出展します。カタログをめくりながら気がついたのですが、東レ・フランス社はフランス企業とみなされているのですね。これは、いかに我が国の産業がグローバル化したかを物語っています。

日本のボーイング贔屓はこれからもずっと続くのでしょうか?

先ほども申し上げた通り、航空産業というのは一事が万事、時間がかかるのです。顧客たった一社の懐に入り込むのにも経験がものを言いますし、長期に渡るコミットメントが要求されます。ですから航空産業において、いったん出来あがった関係が見直されることは、まずありません。エアバスも多くの部品供給元を抱えており、日本企業がヨーロッパ市場に食い込むには、こうした企業と戦わなければなりません。 

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